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アメリカの威信をかけた「アルテミス計画」 月を足がかりに火星探査へ

(写真/アフロ)

アポロ11号が人類で初めて月面着陸に成功したのは1969年7月20日。アポロ計画が終了した1972年以降、有人月面探査は行われてこなかった(写真/アフロ)

「アルテミス計画」とは、アメリカ航空宇宙局(NASA)が主導している、有人月面探査プロジェクトのこと。2024年までに月面に人類を送り、その後、月面基地を造るなど、人類の持続的な月面活動を目指すものだ。これを推進するために、2020年10月にはアメリカ、日本、カナダ、イタリア、ルクセンブルク、アラブ首長国連邦、イギリス、オーストラリアの8か国が「すべての活動は平和目的のために行われる」ことをはじめとした「アルテミス合意」にサインしている(現在は20か国に)。

 1969年にアポロ11号が月面着陸してから実に約半世紀ぶりに、有人の月面探査が始動するわけだが、なぜいま、“月”を目指すのか?

トランプ前大統領が目指した再びの「強いアメリカ」

「もともとは、『アメリカを再び偉大にしよう』をスローガンに掲げていたトランプ前大統領が推進してきたプロジェクトです」

 そう説明するのは、宇宙法の専門家で学習院大学法学部教授の小塚荘一郎さんだ。

「アポロ11号に熱狂したというトランプ前大統領は、2017年に、24年ぶりとなる国家宇宙会議を復活させるなど、宇宙開発にとても熱心でした。

 その後、バイデン政権になり、政策の方針転換がなされましたが、アルテミス計画は継続されました。これは、もはやアメリカの威信をかけた国策といっていいでしょう」(小塚さん・以下同)

 しかし、なぜ約半世紀もの間、月面探査をしなかったのだろうか。

「実はこれまでの探査で月の組成は概ねわかっており、科学的価値や希少資源は少ないとみられてきました。一方火星は、太陽系の中で地球と最もよく似た表層環境なので、人類移住の可能性もある。

 そのため、限られた予算内で宇宙開発を行うなら、直接火星を目指すべきという主張の方が国際的にも強かったのです。

 そんななか、トランプ前大統領がGOサインを出したことでアルテミス計画が始動。月を開拓することで火星探査に役立たせようという流れにシフトしたのです。ゆくゆくはISS(国際宇宙ステーション)の運営は民間に任せ、国として行うミッションは、月を足がかりに火星探査へと移っていくでしょう」

 地球と同じく四季があり、土壌に水分子があることや降雪、湖の存在も明らかになっている火星。有人火星着陸は2030年代になると見込まれている。

「アルテミス1」は無人探査だが、マネキン人形が登場。「アルテミス2」で宇宙飛行士を乗せた飛行テストを行い、「アルテミスト3」で有人月面着陸となる(写真/アフロ)

「アルテミス1」は無人探査だが、マネキン人形が登場。「アルテミス2」で宇宙飛行士を乗せた飛行テストを行い、「アルテミスト3」で有人月面着陸となる(写真/アフロ)

中国の「月の裏側」捜査に世界が震撼

 アルテミス計画を急ピッチで進める理由はもう1つある。それは中国の躍進だ。2019年には中国が月の裏側に無人探査機を世界で初めて着陸させ、2020年には月面からサンプルを持ち帰るなど、話題を集めた。

「中国の活動は、月面への有人飛行や恒久的な月面基地の建設を見据えるなど、アルテミス計画とかぶる部分が大きい。氷を見つけたという報告もありますから、アメリカの優位性が揺らぐ可能性がある。その真偽を含め、早急にアルテミス計画で細密な調査をする必要があります」

 最初のミッション「アルテミス1」の新型ロケット・SLS初号機の打ち上げは、延期が相次いだが、早くて11月中旬〜下旬になる予定だ。人類にとって新たなる一歩となるのか注目が集まる。

取材・文/辻本幸路

※女性セブン2022年10月27日号

「アルテミス1」のSLSロケットに相乗りする、日本が開発した探査機「OMOTENASHI」。“探査機の小型化”への挑戦となる

「アルテミス1」のSLSロケットに相乗りする、日本が開発した探査機「OMOTENASHI」。10cm角の立方体6個分という史上最小サイズ。コスト面や運用面でも可能性が広がる“探査機の小型化”への挑戦となる(C)JAXA

こちらもSLSに相乗りする日本の探査機「EQUULEUS」。

こちらもSLSに相乗りする日本の探査機「EQUULEUS」。燃料をあまり使わずに飛行でき、月の裏側への異動も期待されている(C)JAXA

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