しかし、北川のその“図太さ”が役を引き寄せた。
「面白くなかった理由を聞いてみると、『この台本はリナ(主人公)のことを悪く書きすぎている。いまの若い子はこんなんじゃない』『もし自分がリナ役をやらせてもらえるなら、こういう風にやりたい』と役に対する真摯な姿勢が垣間見えた。それで“主役はこの子だ”と思ったんです。
後で知ったことですが、派手な格好も無愛想な態度もリナの役柄に合わせてオーディションに臨んでいたようです。実際の彼女はまだ大学生で、お父様も厳格な人らしく『クラブにも行ったことはない』と言っていました。台本を面白くないと言ったことも含めて、度胸と覚悟を感じましたね。当時から女優として大成する片鱗を見せていたように思います」(同前)
相手が監督でも臆さずに自分の意思を伝える自己主張の強さと、与えられた役割を全うしようとするひたむきさで、北川は「大根役者」から徐々に脱皮していった。
時代劇で花開く
2009年、北川は太平洋戦争末期を舞台にした映画『真夏のオリオン』のヒロイン役に抜擢された。北川にとって初の歴史モノだった。
メガホンを取ったのは『間宮兄弟』に北川を抜擢した故・森田芳光監督の薫陶を受ける篠原哲雄監督である。
「彼女の初主演映画『チェリーパイ』を観て、“この子は根性がありそうだ”と思っていました。北川さんは自分を見出してくれた森田監督に恩義を感じていて、同じ『森田組』ということで親近感がありましたね。
当時の北川さんの演技は確かに未成熟でした。でも、その初々しさがかえって役柄にマッチしていた。戦時中の役では、“男性の三歩後ろを歩く昭和の女性像”を意識して演じてくれたし、そこには彼女が元来持っているある種の慎ましさも投影されていたと思う。私が演技指導する必要はなかった」(篠原氏)
強く印象に残っているのは、出征する恋人男性に北川が敬礼をして去っていくシーンだという。
「僕らは脇をあまり開かない海軍式の敬礼の形にこだわっていました。北川さんは相当練習したんでしょうね、見事な敬礼でした。役に入り込んでいて、去っていく時にさりげなく涙を流すシーンを見て感心しましたよ。
当時はドラマの撮影もあって多忙だったから、移動の合間はもっぱら寝ていましたね(笑)。体力的にもギリギリのなかで、よく頑張ってくれました」(同前)
2010年には藤沢周平原作の映画『花のあと』で時代劇に初挑戦した北川。篠原氏は幅広い役をこなしたのが現在の成功に繋がっていると評価する。
「『真夏のオリオン』で演じた戦時中のおしとやかな女性とは対照的に、『花のあと』では勇敢な女性剣士を演じました。振り幅が大きい役をこなして、北川さんの演技力が花開いた。彼女の持つ品性や芯の強さ、チャーミングさも相まって演技の幅が広がったんだと思います」