一方、宗教界にも大きな変革の波の予兆がやってきます。当然のことですが、ペスト菌の感染にはいかなる宗教儀式も、その流行を止めることはできません。大流行の中で神に救いを求めた人々は、神への信仰が疫病の悲劇とはなんら関連性をもたず、神の教えが患者を救い得ないことを明らかな事実として実感しました。さらに、黒死病の最中、聖職者が流行の激しい都市を逃げ去るか亡くなるかした教会の前で、取り残された人々はなおさらにそれを理解したのでした。こうして中世社会を強い権威で支配していた教会の力が一気に失墜し、この宗教不信が後世の宗教改革への大きな布石となっていきました。
感染症の大流行は社会や思想、経済や産業までも変えてきました。そして、コロナでも社会のさまざまなあり方が変わったように感じています。
【プロフィール】
岡田晴恵(おかだ・はるえ)/共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士を取得。国立感染症研究所などを経て、現在は白鴎大学教授。専門は感染免疫学、公衆衛生学。
※週刊ポスト2023年3月3日号