ライフ

中世の「黒死病」大流行 労働環境、産業、宗教界に大きな変革をもたらしたペスト

中世の「黒死病」が社会にどんな影響を?(イラスト/斉藤ヨーコ)

「黒死病」が中世の労働環境、産業、宗教界にも影響(イラスト/斉藤ヨーコ)

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、中世で黒死病と恐れられたペストについてお届けする。

 * * *
 前回に引き続き、中世のペスト(黒死病)の大流行についてお話ししましょう。

 黒死病は全世界で7000万人、ヨーロッパで3000万人以上という人命を奪いました。フランスでは黒死病のあと人口が元に戻るのに2世紀を要しましたが、それは他のヨーロッパの地域でも同じでした。黒死病以前のヨーロッパ社会では人々は教会と領主の二重の権力で縛られ、人口の大半を占める農奴はそのほとんどが荘園に縛り付けられてひたすら働かされていました。また、宗教界ではカトリック教会が西ヨーロッパただ1つの教会であり、すべてのキリスト教徒が属していました。民衆はキリスト教の組織に組み込まれ、思想的にもキリスト教を心の拠り所として、神に救いを求めて生きていたのです。

 黒死病の後、農村での深刻な労働力不足で実った小麦が刈り取れない事態に陥ったとき、領主は農民の農業生産者としての役割を認めざるを得なくなりました。結果として小作制が採用され、農業労働の対価が賃金で支払われるようになったのです。これは農奴制度が事実上崩れたということになり、それは荘園制度の崩壊と封建制の没落という大きな社会変革を意味したのです。時を同じくして、労働問題の先駆的な国家であるイギリスでは、1349年に「労働者勅令」、1351年に「労働者規制法」が農業労働者への措置として立法されています。

 さらに労働者不足はヨーロッパの農業地図に大きな変化を起こします。小麦栽培より耕作にあまり人手の要らない葡萄栽培が広がり、作業効率のいい牧畜も増えることになりました。葡萄栽培はワインの増産につながり、主要な産業に育っていきます。また、牧畜は原料としての羊毛の生産が増え、それは羊毛製品の生産を促すことになります。例えばイングランドの羊毛製品は、この後、産業革命を経て伝統的な産業に発展していくのです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
若隆景
序盤2敗の若隆景「大関獲り」のハードルはどこまで下がる? 協会に影響力残す琴風氏が「私は31勝で上がった」とコメントする理由 ロンドン公演を控え“唯一の希望”に
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン