2017年に京王電鉄が導入した新型車両「5000系」の車内。鉄道会社の新型電車導入時に車内にはベビーカーや車いす専用スペースを設置するのが当たり前になりつつある(時事通信フォト)

2017年に京王電鉄が導入した新型車両「5000系」の車内。鉄道会社の新型電車導入時に車内にはベビーカーや車いす専用スペースを設置するのが当たり前になりつつある(時事通信フォト)

ベビーカーをめぐるトラブルの新潮流

 善意とは、相手の立場や窮状を理解したうえで発揮され、受け取る側も感謝と配慮をすることで社会生活を成り立たせるもののはずだ。親子や親友など個人的な関係性から、無条件に善意を発揮する場合もあるだろうが、社会的に共有されている「善意をかけられるべき対象」という認識では、たとえば「お客さん」「子供」「体が不自由な人」「高齢者」などがあるだろう。少子化がすすむ日本では、未来を担う子供に、善意から様々に手助けをするのが当然という共通認識が拡大している。

 たとえば、少し前までは電車やバスに乗車するとき、ベビーカーはなるべく邪魔にならないように折りたたむのがマナーだと言われた。数年前、まだ子供が小さかった筆者も電車に乗る度、片手に子供を抱きかかえ、片手に折りたたんだベビーカーを持った。それでも車内が混んでいれば舌打ちされるなど、窮屈で大変な思いをしたものだった。

 あの当時は、ベビーカーが他の利用客の迷惑にならないようにするのが推奨されており、車内でもそうしたアナウンスがあったように記憶しているが、今では社会の風向きが変わった。ベビーカーを折りたたまないまま乗車しても大丈夫だと、鉄道やバスなどの公共交通機関各社が呼びかけ、ベビーカーに配慮するという新しい「善意」の必要性を、マスコミも後押しするように説いたのである。ベビーカーが必要な子供のためにそうなったはずで、善意を受け取った側も周囲に気を配るのが望ましいのだが、なかには前出の「ネギや揚げ玉を容器に入れて持ち帰る客」のような態度の人がいるという。

「私にも小さい子供がいますから、ベビーカーを伴っての移動の苦労は痛いほどわかる。ベビーカーに関する鉄道各社の呼びかけも妥当なものだと思います。しかし、朝の満員電車にママ数人、何台ものベビーカーで乗り込んでこられてはたまらない。押した当たったと何度もトラブルになっていて、電車が止まったこともあります。中高年客からは”最近の親は手抜きだ”と怒鳴り声が上がったり、反対にママ側は”ベビーカーに配慮を”と不満げ。何が正しいのか、わからなくなってしまいます」

 こう証言した都内在住の会社員・神田健憲さん(仮名・40代)は、毎日利用する通勤電車で、ベビーカーを巡る「善意」にまつわるトラブルに複数回巻き込まれた。件のママ集団は朝のラッシュ時、ベビーカーに子供を乗せた状態でたびたび乗り込んでくるといい、いくら世間に「ベビーカーを温かく見守ろう」という雰囲気があっても、あれでは「全く理解されない」と訴える。

「空いた車内であれば、もちろん気を遣いますよ。でも、通勤ラッシュ時の満員電車では自身の身動きすら取れず、ベビーカーに配慮なんかできません。ちょっとでも当たったり押したりすると睨まれます。私も小さな子供がいて、妻がベビーカーを押して電車を利用することもありますが、こんなトラブルにならないよう気をつけて欲しいとお願いしています。善意を受け取る以前に、周囲への配慮は必要だと思います」(神田さん)

 おそらく、ほとんどのベビーカーユーザーは朝の通勤ラッシュに電車に乗り込まないように調整するだろう。どうしても満員電車に乗らなければならない場合は、子供が怖い思いをしないように、ベビーカーにのせたまま乗車することは避けるのではないだろうか。ごく一部かもしれないが、図々しい人たちを強く退けられないため不満だけが募る。

関連キーワード

関連記事

トピックス

高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年、第27回参議委員議員選挙で使用した日本維新の会のポスター(時事通信フォト)
《本当に許せません》維新議員の”国保逃れ”疑惑で「日本維新の会」に広がる怒りの声「身を切る改革って自分たちの身じゃなかったってこと」
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《広陵高校暴力問題》いまだ校長、前監督からの謝罪はなく被害生徒の父は「同じような事件の再発」を危惧 第三者委の調査はこれからで学校側は「個別の質問には対応しない」と回答
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン