ノースリーブワンピースを着こなされたことも
約束の日には菊の落雁
松居さんは、1926年に京都に生まれ、26才のときに義父の書店「福音館」を出版社として創業。1956年に月刊物語絵本『こどものとも』を創刊すると、横判、横書きを採用するなど、当時の児童書の常識にとらわれない絵本の手法を取り入れた。
「松居さんは、『スーホの白い馬』の赤羽末吉氏や、『だるまちゃん』シリーズのかこさとし氏を筆頭に、日本を代表する数々の絵本作家を発掘した編集者としても知られています。また、『おおきなかぶ』や、ミッフィーの作者のディック・ブルーナ氏の『うさこちゃん』シリーズも彼が編集を担当しました」(出版関係者)
とりわけ有名なのは、『ぐりとぐら』シリーズだろう。『ぐりとぐら』は美智子さまも気に入られており、天皇陛下に何度も読み聞かせをされていた。
「当時4才の天皇陛下と、ご静養のため軽井沢へ列車で向かわれるとき、美智子さまが脇に抱えられていたのが『ぐりとぐら』でした。道中で読み聞かせをされていたのでしょう」(皇室記者)
2017年のベトナム訪問の際、日本の絵本の普及活動を行っているベトナム人女性に対し、《読み聞かせをしている本の中に『ぐりとぐら』はありますか?》と質問されたほど、美智子さまにとって同書は思い入れのある絵本だった。東日本大震災の後、美智子さまは「3.11絵本プロジェクトいわて」を通じて、被災地に19冊の本を届けられた。その中の実に6冊が、福音館書店の絵本だったという。
「皇太子妃時代から、美智子さまが写真や映像に映られるときには、福音館の本も一緒に映っていたことがよくありました。また、庭園美術館(東京・港区)で児童文学のイベントを開催した際にも、足を運んでいただきました」(和さん・以下同)
美智子さまと松居さんはまた、「読み聞かせ」の重要性についても共鳴していたという。
「父は繰り返し、読み聞かせの大切さを説いていました。絵本の言葉を、親の言葉として子供に伝えることが大切だと。美智子さまは、そうした父の考えを理解してくださって、読み聞かせを実践されていたのではないでしょうか。美智子さまがなされることで、どれだけ子育てにおいて『読み聞かせ』が家庭内に広まったか。父は心から美智子さまに感謝していると思います」
美智子さまは松居さんと家族ぐるみの交流もされてきた。
「美智子さまと父の関係は、50年以上になるのではないでしょうか。私が高校生の頃、父は美智子さまとお会いすると、必ず菊の落雁を持って帰ってきました。それを見て、今日が約束の日だったんだと思ったことを覚えています。美智子さまが上皇后さまになられる前には、両親が御所での食事に招かれたこともありました」
近年は認知症の兆候もあったといい、松居さんが最後に美智子さまとお会いしたのは、6年ほど前の美智子さまのお誕生日の会だったそうだ。
「当時、父は90才で、体調もあまりよくなかったのですが、うれしそうでした。美智子さまはピアノでフランスの曲を弾いてお出迎えになってくださいました。同行した私も本当に感動しました」
美智子さまにとって、大きな存在を失われたに違いない。喪失感はいかばかりか──。
※女性セブン2023年3月30日・4月6日号