2018年の部屋開き当時の東関親方夫婦(時事通信フォト)
未亡人は売買にあたるような実態を認めながらも、時代の変化については真摯にこう強調した。
「本音をいえば、うちの親方も(株取得時は)大変な思いをしたが、今はそういう時代ではなく、親方の残したもので金額を釣り上げるなんてよろしくないのだと思います」
では、妙義龍への譲渡に関してもう一方の当事者である境川親方の見解はどうか。直撃すると「(取得は)たまたまの巡り合わせですから」と答える。一門外からの譲渡は高額になるのでは、と尋ねると「いえいえ、そんな……。売買するようなものじゃないから。たまたまタイミングがよかったんですよ。巡り合わせとタイミングだから」として、やり取りを切り上げた。
当事者たちの肉声からは相撲協会という組織において、表向きの定款と、内実が大きく異なっていることが浮かび上がる。
「定款に売買禁止が明記されて以降も、年寄株の継承者が前所有者に『指導料』などを支払うことは認められ、実態としては年寄株のためにカネが動いている。みんな過去の株取得でカネを払っているから、“タダでは譲れない”という既得権者の理屈が通っている状況です」(ベテラン記者)
表向きの売買禁止の定款があるため、むしろ実態は見えにくい。相撲協会に未亡人が権利を持てることや、金銭のやり取りが今もあることへの見解を問うたが「お答えすることはありません」(広報部)とするのみだった。
貴景勝も、正代も…
年寄株問題は現役力士たちの将来にも関わる。
「現役で年寄株の手当てができているのは、遠藤の『北陣』、北勝富士が『大山』、阿武咲が『音羽山』などわずか。貴景勝や正代も先行きは不透明です(別表参照)。次に空きが出るまで現役を続けないといけないような状況です」(担当記者)
そうした影響で力士の高齢化も進む。2021年9月場所では64年ぶりに幕内平均年齢が30歳を超えた。様々な観点から国技の未来が不安視されているのだ。相撲協会の公益財団法人化に際して、「ガバナンスの整備に関する独立委員会」で副座長を務めた慶應大学商学部の中島隆信教授が指摘する。
「本来、税制上の優遇措置を受ける公益財団法人である協会の構成員の資格がカネでやり取りされるのはあり得ないこと。資金を用意できるかではなく、組織を強くできる人材かを考えて親方になる人を選ばないといけない。それなのに、協会員ではない親方の未亡人が自分の判断で年寄株を売ることを認める組織に、将来があるとは思えません。ただ、親方衆は私たち外部の声に聞く耳を持たない。昔からの慣習を続けるばかりなのです」
今こそ、抜本的な改革が必要な時ではないか。
※週刊ポスト2023年6月9・16日号
