ライフ

「本当はお客様ともっと話したい」中国出身料理人・孫成順さんが料理界のトップだからこそ感じた悔しさ【連載「日本語に分け入ったとき」】

孫さんが毎日店頭で調理をする「中国名菜 孫」

孫さんが毎日店頭で調理をする「中国名菜 孫」

 日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回はお茶の間でも人気の高い中国出身料理人の孫成順さんにうかがった。【全3回の第2回。第1回から読む

 * * *
 仕事をしながら、言葉を学ぶのは大変だ。しかも孫さんは中国料理界のトップ。引っ張りだこで休む暇もない。

「中国語の漢字の発音と、日本のひらがなを紙に書いて、何度も発音して練習。簡単な日本語の本も買って、時間があるとき見てましたね。料理の言葉は、塩、お酢、豚肉、鶏肉、白菜、チンゲンサイ、すぐに覚えたけど『〇〇に』とか『〇〇を』とか、難しかった。聞いて、覚えて、聞いて、覚えて。

 で、厨房にいる時、周りの人と喋るじゃないですか。言葉が分からなかったら聞きますよね、『これ、なんだ?』って。でも『はい!』って言われるの。孫さんは日本語上手だから大丈夫大丈夫、って」

 料理の世界の大先輩に教えるのは気が引ける、そう思われてしまったのだ。

「『俺、料理教えるから日本語教えてよ』って言っても『いやいやいや、僕、孫さんの言うこと全部分かりますから』って言われる(笑)。向こうは、僕が年上だから教えたら悪い、失礼だって思ってるから、いつも『孫さんは上手です』って言ってくれる。

 僕は厨房で鍋振って、包丁持って火つけてれば魚とお水の関係(水を得た魚)。でも、すごい悔しいですよ。ほんと悔しい。もっと日本語上手かったら、お客さんによくわかる説明できる。味、香り、形、説明したいですよ。でも変な日本語だから……」

 このインタビューの最中、孫さんは「悔しい」を何度も繰り返した。テーブルを叩きながら「もっともっと、日本語ができたら」と。

関連キーワード

関連記事

トピックス

衝撃を与えた日本テレビ系列局元幹部の寄付金着服(時事通信フォト)
《24時間テレビ寄付金着服男の公判》「小遣いは月に6〜10万円」夫を庇った“妻の言い分”「発覚後、夫は一睡もできないパニックに…」
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO
《国民に愛された『TOKIO』解散》現場騒然の「山口達也ブチギレ事件」、長瀬智也「ヤラセだらけの世界」意味深投稿が示唆する“メンバーの本当の関係”
NEWSポストセブン
漫画家の小林よしのり氏
小林よしのり氏、皇位継承問題に提言「皇室存続のためにはただちに皇室典範を改正し、愛子皇太子殿下の誕生を実現しなければならない」
週刊ポスト
教員ら10名ほどが集まって結成された”盗撮愛好家グループ”とは──(写真左:時事通信フォト)
〈機会があってうらやましいです〉教師約10人参加の“児童盗撮愛好家グループ”の“鬼畜なやりとり”、教育委員会は「(容疑者は)普通の先生」「こういった類いの不祥事は事前に認知が難しい」
NEWSポストセブン
警視庁を出る鈴木善貴容疑者=23日午前9時54分(右・Instagramより)
「はいオワター まじオワター」「給料全滅」 フジテレビ鈴木容疑者オンカジ賭博で逮捕、SNSで1000万円超の“借金地獄”を吐露《阿鼻叫喚の“裏アカ”投稿内容》
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO(HPより)
「TOKIOを舐めるんじゃない!」電撃解散きっかけの国分太一が「どうしても許せなかった」プロとしての“プライド” ミスしたスタッフにもフォロー
NEWSポストセブン
大手芸能事務所の「研音」に移籍した宮野真守
《異例の”VIP待遇”》「マネージャー3名体制」「専用の送迎車」期待を背負い好スタート、新天地の宮野真守は“イケボ売り”から“ビジュアル推し”にシフトか
NEWSポストセブン
「最近、嬉しかったのが女性のファンの方が増えたことです」
渡邊渚さんが明かす初写真集『水平線』海外ロケの舞台裏「タイトルはこれからの未来への希望を込めてつけました」
NEWSポストセブン
4月12日の夜・広島県府中町の水分峡森林公園で殺害された里見誠さん(Xより)
《未成年強盗殺人》殺害された “ポルシェ愛好家の52歳エリート証券マン”と“出頭した18歳女”の接点とは「(事件)当日まで都内にいた」「“重要な約束”があったとしか思えない」
NEWSポストセブン
「父としての自覚」が芽生え始めた小室さん
「よろしかったらお名刺を…!」“1億円新居”ローン返済中の小室圭さん、晩餐会で精力的に振る舞った理由【眞子さんに見せるパパの背中】
NEWSポストセブン
多忙なスケジュールのブラジル公式訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《体育会系の佳子さま》体調優れず予定取り止めも…ブラジル過酷日程を完遂した体力づくり「小中高とフィギュアスケート」「赤坂御用地でジョギング」
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン