ライフ

元NHK自然番組ディレクターが明かす「なぜ僕は会社をやめて『猟師』になる道を選んだのか」

北海道の猟期は10月から翌年3月まで。スキーやスノーシューを履いて野生動物を追う(撮影:大川原敬明)

北海道の猟期は10月から翌年3月まで。スキーやスノーシューを履いて野生動物を追う(撮影:大川原敬明)

 数多くのテレビコンテンツの中でも、自然や野生動物に焦点をあてたNHKのドキュメンタリー番組は、そのクオリティの高さに定評がある。長期間にわたりテレビカメラを回し続けて「決定的瞬間」を撮影し、知られざる大自然の真の姿を明らかにしたり、それらの映像を活用した教養番組が生まれたりすることもある。そうした自然番組を制作していたディレクターの一人が今夏退社し、北海道で「猟師」として生きる道を選んだという。いったい何が彼を突き動かしたのか──。

 元ディレクターの黒田未来雄氏がその経緯を明かすシリーズの第1回。新刊『獲る 食べる 生きる 狩猟と先住民から学ぶ“いのち”の巡り』より抜粋・再構成。

 * * *

 足元に横たわる巨大な黒い塊を前に、呆然と立ち尽くす。これは本当に、僕が獲ったものなんだろうか──。

 現実感はない。喜びも湧いてこない。それでも、ついさっき、大声で吼えながら斜面を駆け降りていったヒグマはピクリとも動かない。息も完全に止まっている。

 間違いない。仕留めたんだ。そう思った瞬間、極度の緊張から解放され、思わずその場にへたり込んだ。

 切ない。涙が溢れそうになる。まずい。これはやってはならないことだ。

 心の中に蘇る、遠い日の記憶。低い声が言う。

「泣くな。獲ったからには、それはもはや、皆に喜びをもたらすもの。行きすぎた悲しみは、自分の身を捧げてくれた獲物に対し、失礼だ」

 その通り。僕は、ヒグマを獲りたくて獲ったんだ。しかも、生まれて初めて。泣くな。喜べ──。

 これが、僕が生まれて初めて、ヒグマを仕留めた時の思い出だ。公共放送のテレビ局で、自然番組のディレクターをしていた僕は、徐々に狩猟にのめり込み、職を辞して猟師になることにした。

 ここに、その顛末を記すことにしたい。 

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
雅子さまが三重県をご訪問(共同通信社)
《お洒落とは》フェラガモ歴30年の雅子さま、三重県ご訪問でお持ちの愛用バッグに込められた“美学” 愛子さまにも受け継がれる「サステナブルの心」
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン