カナダ選手の五輪タトゥー。2021年開催の東京五輪では、ワンポイントの刺青を入れている選手が多くいた(AFP=時事)

カナダ選手の五輪タトゥー。2021年開催の東京五輪では、ワンポイントの刺青を入れている選手が多くいた(AFP=時事)

刺青を入れたときの覚悟

 初めて見た女の刺青は男のそれとはまるで違っていた。首の付け根から尻にかけて背中一面に彫られた羽衣天女は、白い肌の上に艶めかしく浮き上がっていた。勢いや迫力はないが、優しく穏やかな図柄だ。天女の輪郭は少しぼやけているが柔らかい。白い肌のせいか色は明るくパステルカラーのような淡い色調だが、肌の奥まで深く色が入っていた。それが手彫りの特徴だという。天女の周りには蝶が飛び、牡丹が咲く。姐さんが体をよじるとそれに合わせて天女や蝶が動いた。パラパラ漫画を見ているような不思議な感覚がした。

 極妻である姐さんに刺青を入れた理由を聞くと、「映画のセリフみたいだけど、極道を好きになったんじゃない。好きな男が極道だっただけ。そう言いたいところだけど、私の場合は極道を、それも組織のトップと知っていて好きになった。だから覚悟を決めて一緒に生きていくために墨を入れた」。自らも極道として生きていくという決意だと語る彼女の目は力強かった。

 覚悟の先にあったのは激痛と高熱。彫ってもらう度に38度近くの高熱が出て、全身が腫れあがり、寝返りすら打てなかった。それでも彫り上がった時は嬉しかったという。二回り以上も年上の組長は、その天女を見ながら「ここまでされたら、死ぬまで面倒を見ないわけにはいかないと思った」と語っていた。

 ところがそれから数年後、姐さんは組長を捨てて家を飛び出した。若いヤクザに惚れたのだ。組長は彼女とそのヤクザを追うことはなく静観した。「しばらく経てば熱も冷め、バカなことをしたと頭を下げて戻ってくる」。半年後、組長の言う通り姐さんは戻ってきた。許すのかと思ったがそうではなかった。「遊びぐらいなら許せるが、男と出て行った女など家には入れない」と玄関先で追い出したのだ。「極道の世界で生きるなら、惚れた女でも裏切りは許されない。ましてあいつは墨まで入れていた」。彼女に残されたのは背中の刺青だけだった。

 それから数年後、元姐さんに会った。背中の刺青を消そうと病院をいくつも探したが、刺青が大きすぎて無理だとすべて断られたという。「後悔しているのか」と聞くと、「後悔していないといえば嘘になる。着る服には気を使うし不便なことも多い。何より、寄ってくる男がヤクザしかいない」と肩をすくめて笑った。今でも彼女は、その背に羽衣天女を背負って生きている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
実業家の宮崎麗香
《セレブな5児の母・宮崎麗果が1.5億円脱税》「結婚記念日にフェラーリ納車」のインスタ投稿がこっそり削除…「ありのままを発信する責任がある」語っていた“SNSとの向き合い方”
NEWSポストセブン
出席予定だったイベントを次々とキャンセルしている米倉涼子(時事通信フォト)
《米倉涼子が“ガサ入れ”後の沈黙を破る》更新したファンクラブのインスタに“復帰”見込まれる「メッセージ」と「画像」
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン
峰竜太(73)(時事通信フォト)
《3か月で長寿番組レギュラー2本が終了》「寂しい」峰竜太、5億円豪邸支えた“恐妻の局回り”「オンエア確認、スタッフの胃袋つかむ差し入れ…」と関係者明かす
NEWSポストセブン
2025年11月には初めての外国公式訪問でラオスに足を運ばれた(JMPA)
《2026年大予測》国内外から高まる「愛子天皇待望論」、女系天皇反対派の急先鋒だった高市首相も実現に向けて「含み」
女性セブン
夫によるサイバーストーキング行為に支配されていた生活を送っていたミカ・ミラーさん(遺族による追悼サイトより)
〈30歳の妻の何も着ていない写真をバラ撒き…〉46歳牧師が「妻へのストーキング行為」で立件 逃げ場のない監視生活の絶望、夫は起訴され裁判へ【米サウスカロライナ】
NEWSポストセブン
シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン
愛子さまのドレスアップ姿が話題に(共同通信社)
《天皇家のクリスマスコーデ》愛子さまがバレエ鑑賞で“圧巻のドレスアップ姿”披露、赤色のリンクコーデに表れた「ご家族のあたたかな絆」
NEWSポストセブン
硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将(写真/AFLO)
《戦後80年特別企画》軍事・歴史のプロ16人が評価した旧日本軍「最高の軍人」ランキング 1位に選出されたのは硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将
週刊ポスト