ひとり暮らしに戻ったピーコは、買い物に出かけるとよく瓶のウイスキーを買って帰るようになったという
「弟とは違う施設で」
認知症に蝕まれつつも、ピーコの心のどこかにおすぎの存在が残っていた。
「ひとり暮らしに戻ったピーコさんは、買い物に出かけるとよく瓶のウイスキーを買って帰るようになりました。もともとピーコさんは大のシャンパン好きで、ウイスキーを好む人ではないんです。ウイスキーはおすぎさんが大好きだったお酒で、一緒に晩酌をしようと手を伸ばしていたのかもしれません」
一方で、生活は荒んでいった。自宅にはゴミがたまり、身の回りのことができなくなっていたピーコ。周囲がその生活を心配し始めた矢先、事件は起きた。今年の3月25日、買い物に訪れた店で万引き(窃盗罪)で逮捕されたのだ。
「本人は『代金はクレジットカードで払った』と説明していましたが、ピーコさんのカードは使用停止になっていました。ピーコさんは善悪の判断がつかない状態で、しばらく前から万引きを繰り返していた疑いがあり、お店の人が警察に通報したのです。後からわかった話では、逮捕された店だけでなく、自宅周辺の複数のお店が警察に相談していたそうです」(県警関係者)
逮捕後、行政の担当者が代理人弁護士とピーコの処遇を話し合った。そこで決まったのが、「施設に入る」という方針だ。
「両親と2人の姉を先に亡くし、弟も施設に入っているピーコさんには身寄りがなく頼れる人もいません。施設入所の話を聞くなかで、ピーコさんは思い出したように“弟とは違うところで”というニュアンスの言葉を繰り返したそうです。
おすぎさんに会いたい気持ちはあったでしょうが、相当な覚悟を持って彼を施設に入れたわけですから、再びの同居には抵抗があったのかもしれません。それに顔を合わせるうちに、またいがみ合う生活に戻っても困る。ピーコさんなりにおすぎさんのことを思い、悩んで出した結論だったのでしょう」(前出・ピーコの知人)
認知症の進行とともに、ピーコはおすぎを、おすぎはピーコを忘れてしまうかもしれない。別々の施設への入居は「今生の別れ」にも近い選択になる。今年8月、2人がわずか3か月だけ暮らした横浜市内のマンションはひっそりと売却され、兄弟が帰る場所もなくなった──。
冒頭のグループホーム。テレビを見ながら腕や指を動かすレクリエーションを終えたおすぎは、おやつのお菓子をほおばると、幸せそうに微笑む。健康的で穏やかな昼下がりを過ごしていた。
※女性セブン2023年10月5日号