「二枚目のことです。テレビに出始めると、自分のことをかっこええと思ったりね。あと、きれいな嫁さんをもらうのも危険やな、自分が二枚目と勘違いするから(笑)。要は、精神的な『二』になるのが怖いんですよ。芸に気取りが見えたら、途端に面白くなくなりますから。昔、テレビに一緒に出てた仲間と会ったら『のりおさん、相変わらずオモロイですね~』と言われることがあるんですが、『ちゃうやん、おまえが最近全然オモロなくなったんやん!』と言うたるんですよ(笑)。
若手が楽屋で澄ました顔して黙ってる、いうのも増えてきましたわ。“プロの芸人は普段は黙っているのがカッコええ”という態度をとりがちなんです。わかります。けど、違うと思います。カッコをつけてるだけなんですよ、普段からもっと喋ったらよろしいがな、と思いますね。僕なんか、楽屋どころか、パチンコ屋でもしゃべりまっせ。『出てるか?』って知らん人に。『ここ、回らへんやろ?』と。ほしたら相手も『締めとんちゃうか』ゆーて。『うおっ! のりお!』ゆわれまっせ。そやけど、みんな勝ちたいだけやから、また台を見ますやん(笑)。ゆーて、芸人はいつでも、どこでも、誰でも、沸かしてナンボちゃいます?」
やがて、「ほな時間や。おおきに、舞台に上がってきますわ」と言って、西川のりおはさっと立ち上がった。スタスタと楽屋を出て行くと、舞台袖へ向かう。やがて、出囃子が鳴り、明るい舞台のほうからは、「こんにちは、林真理子です」「おい、ちゃうやろ!」という声と、客たちの爆笑が聞こえてきた。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
西川のりお(にしかわ・のりお)/1951(昭和26)年5月12日、奈良県生まれ。高校卒業前に西川きよしに弟子入り。何度か芸名やコンビを変えながら、1975年に上方よしおと「西川のりお・上方よしお」を結成。1980年代前半の漫才ブームの一翼を担い、テレビ『オレたちひょうきん族』にレギュラー出演する。またアニメ『じゃりン子チエ』で父・テツの声を務める。「土を踏むのが単純に好きなんです。踏んでみないとわからないじゃないですか」と言い、海外経験が豊富。YouTubeチャンネル「のりおくんチャンネル~俺にも言わせろ!~」で舌鋒鋭いトークを公開中。
◆取材・文/輔老心(ライター)