2019年、パフォーマンスを終えて手を重ねる羽生(左)と末延さん(写真/AFLO)

2019年、パフォーマンスを終えて手を重ねる羽生(左)と末延さん(写真/AFLO)

 どうやらそれは彼女が“地元のアイドル”だったことも関係する。現在、自身の公式サイト、ブログなどはすべて削除。2022年末頃からコンサートにも出ておらず、表舞台からは姿を消している彼女だが、過去には「山口ふるさと大使」として地域振興に貢献。地元で愛されていた彼女が結婚する。それも相手は羽生さん、地元にとってはおめでたく、みんなで静かに見守ろうという雰囲気ができたのだろう。しかも地元の人達にとって、羽生さんの結婚相手という秘密を知ることは、世界的アスリートとの「秘密の共有」的感覚を持たせる効果があった。

 心理学者の小此木啓吾は『笑い・人みしり・秘密-心的現象の精神分析-』(創元社)の中で、秘密について「秘密をもつことは、その秘密を知らぬ者との間に自他と境界、ウチとソトの区別を設定し、秘密を共有する者同士の間に親密さや連帯感を作り出すと共に、知らぬ者に対して排他作用や疎外作用を発揮する」としている。秘密を知る地元の人達にとって秘密の共有は、羽生さんと心的距離が近づき連帯感を感じることができる。それは、普段、味わうことができないような感覚だったと思う。だから彼らが公表しないなら、地元は彼らの秘密を守る、そんな雰囲気が出来上がっていたのではないだろうか。

 それでも秘密を抱えるのは苦しいし、誰かに話したいという気持ちは抑えるほどに強くなる。そこで地元という境界線ができ、「ここだけの話」は静かにゆっくり地元で広がっていった。地元の人々はみんな知っていたというのは、そういう理由だと思う。きっと今頃、地元の人達は
大っぴらに気兼ねなく、この話題で盛り上がっているだろう。

「秘密は、貝の中に投げ込まれた石みたいなものだ」と語ったのは、心理学者の河合隼雄だ。人間を貝に、秘密を石に例え、貝にとって石は異物だが、それをずっと包んでいくことで真珠ができあがると説明したという。地元の人達にとって「末延さんと羽生さんの結婚」という秘密はきっと真珠のようなものになっていたのだろう。

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