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《桶川ストーカー殺人事件から24年》「私、殺されるかもしれない」怯える21歳の女子大生が見た元交際相手の本性

殺害された猪野詩織さん(時事通信フォト)

殺害された猪野詩織さん(時事通信フォト)

 あれから、はや24年が経とうとしている。“ストーカー”という言葉がまだ浸透していなかった1999年10月26日、埼玉県のJR桶川駅前で21歳(当時)の女子大生、猪野詩織さんが何者かに刺し殺された。当初は通り魔による犯行と思われたが、事件前、詩織さんがストーカー被害に遭っていたという情報が浮上。被害者の私生活に関する報道も広がるなか、写真週刊誌『FOCUS』の記者・清水潔氏は、詩織さんの友人2名から重大な証言を得る……。

 のちに、「ストーカー規制法」が制定されるきっかけとなったことでも知られる「桶川ストーカー殺人事件」。週刊誌記者による執念の取材は、犯人を追い詰めるとともに警察組織の腐敗を暴き、一大スクープとなった。その一部始終をまとめた事件ノンフィクションの金字塔『桶川ストーカー殺人事件 -遺言-』(新潮文庫)を抜粋して紹介。抜粋部分は、被害者・猪野詩織さんの友人、「島田」と「陽子」(ともに仮名)の驚くべき言葉からはじまる──。【前後編の前編。後編から読む

※プライバシー保護の観点により、一部の個人名をアルファベットに置き換えて表記しています。

 * * *

「詩織はAと警察に殺されたんです」

 取材を始めようとした矢先だった。微妙なタイミングで発せられたその言葉に、私は一瞬虚をつかれた。

 ホイッスルの十秒後にシュートを決められたゴールキーパーのような気分だった。ちょっと待ってくれ、私はまだ何も質問していないではないか。それとも何かの聞き違いだったのか。

 態勢を立て直す間もなく二発目の魚雷が私に急速に接近し、あっという間に爆発した。スーツを着たその青年は早口に言った。

「Aはストーカーなんです。詩織は、僕や陽子にすべてを話してくれていました。Aすべてをです。僕達もまさか本当に詩織が殺されるとは思っていませんでした。でも、彼女は僕達にこう言い遺して死んでいったんです」

 島田さんはそこで唾を飲むように言葉を切った。

「私が殺されたら犯人はA、って」

 私の頭は混乱していた。なんだそれは。殺人事件の被害者が、犯人の名を言い遺して殺されていったというのか? 突拍子もない話だった。その上「犯人が警察」とは……。警察はこれから犯人を探す側ではないか。

 島田さんの握り締めた手が目に入った。膝の上で小刻みに震えていた。私を見つめる目にはうっすら涙まで浮かび、その表情は真剣そのものだった。

 なおも口を開こうとする島田さんを私は制した。

「ちょっと待って下さい。ゆっくりで結構ですから、順番に話を聞かせてもらえませんか」

 とにかく落ち着いてもらおう。私は藤本記者に頼んで飲み物を注文してもらった。いや、本当は私自身が落ち着きたかったのかも知れなかった。なんだかやけにノドが乾く。

 私は島田さんの様子を観察していた。人の話を疑うのは記者の習性のようなものだ。

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