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大物スパイ・ゾルゲ逮捕のDNA受け継ぐ職人集団 警視庁「ソトイチ(外事1課)」が“事件捏造”に手を染めた背景

(時事通信フォト)

外国による諜報事件を取り締まる警視庁公安部外事1課に何が起きたのか(時事通信フォト)

 警察組織で刑事警察と並ぶ主流派の公安警察。刑事警察が殺人事件や特殊詐欺事件など刑法犯を捜査する一方、公安警察は右翼・左翼のゲリラ事件や諜報(スパイ・不正輸出)事件など政治犯を捜査する。そんな公安警察にあって、外国の工作による諜報事件を取り締まる外事部門が、2020年3月に精密機械メーカー社長らを外為法違反容疑で逮捕・立件した事件(2021年に東京地検が起訴取り消し)で冤罪を生んだ疑惑が浮上している。この冤罪が捜査ミスによるものではなく、確信犯とする内部告発があったことが衝撃を大きくした。その背景に何があったのか。マスコミの元警察担当記者でジャーナリストの宇佐美蓮氏が解説する。

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ロシア担当のエキスパート集団

「まあ、捏造ですね」──。2023年6月に東京地裁で行われた国家賠償請求訴訟の証人尋問で、原告側の代理人弁護士から「(警視庁が)事件をでっち上げたのでは」と尋ねられた現職警部補は、そう述べた。警察官が自ら捜査を担当した事件を捏造と認めるのは異例。軍事兵器製造に転用可能な機械を不正輸出したとして逮捕・勾留後、起訴が一転取り消された会社社長らが起こした裁判の一場面だ。

 冤罪の疑いが強まった“事件”を立件したのは、警視庁公安部外事1課。ロシア専門家チームだ。軍事スパイが自衛隊や米軍の秘密情報を収集する活動や、産業スパイ主導による先端技術やハイテク機器の不正輸出を取り締まる部署である。かつて2大大国と呼ばれた米・ソ(ソ連、現ロシア)は冷戦時代、資本主義陣営と共産主義陣営の盟主だった。だからロシアは米国の同盟国・日本にとっても最重点警戒対象なのだ。

 問題の経過を振り返る。外事1課は横浜の精密機器メーカーが生物兵器の製造に転用できる精密機械を規制対象と知りながら対象外であるように偽って不正輸出したとの情報に基づき、2017年5月頃に捜査を開始。翌2018年10月に会社側を外為法違反容疑で家宅捜索した。2020年3月には社長ら3人を逮捕し、起訴後の勾留は10カ月以上。だが起訴した東京地検は一転して起訴を取り消し、会社側は2021年9月、国(検察庁)と都(警視庁)に賠償を求めて提訴する。この公判で飛び出したのが捏造との証言だった。

 細かい技術的な説明は省略するが、争点は兵器製造に転用された際に作業員が危険にさらされないよう菌を完全に死滅させることが出来る機械か否かであった。完全に死滅させられなければ規制対象ではない。

 規制対象でない可能性は捜査開始から間もなく浮上。経済産業省も疑義を呈し、外事1課内でも疑問の声が出たが、捜査は引き返すことなく家宅捜索、逮捕へと突き進んだ。そして起訴後、しばらくして地検も疑念を抱き、菌を完全に死滅させられると立証するのは困難と結論付けて起訴を取り消した。

 内部告発者と捏造証言の警察官が同一人物かは不明だが、この警察官は法廷で捏造の原因を「(捜査幹部が)どこまで上に上がれるのか考えた」ためと推測。家宅捜索まで行ったのに犯罪ではなかったとなれば、上官は出世どころか無能のレッテルを貼られる。引き返すに引き返せなかったわけだ。

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