高倉さんの“演技”で現場の空気が一変し、緊張感の中ですぐに2度目の本番がスタートした。
「それまでは頭の中が真っ白で、もう1回失敗したらどうしようという不安で押しつぶされそうだった。それが高倉さんの“怒声”によって一瞬にしてモヤモヤが晴れました。高倉さんは怒ったふりをすることで“お前しっかりしろよ”と背中を叩いてくれたのだと思っています」
撮影が無事に終了し「オッケー」が出ると、高倉さんは山田さんにそっとこんな言葉をかけた。
「木村大作は日本を代表する撮影監督だから、助手も一流じゃないとだめなんだ」
この言葉は、山田さんのその後の監督人生の大きな指針になっているという。
「映画やドラマを作るために命を懸けている人たちがいる。一緒に仕事をするときに、ぼくの未熟な技術によってその思いを全部台無しにしてはいけないと思った。自分のすべてを捧げて作品を作ろうと決意していまに至ります」
現在は指導する側となった山田さんだが、監督を志す若手との向き合い方にも高倉さんの“怒声”が生きているという。
「高倉さんはぼくの失敗を責めるのではなく、“ついてこい”と背中を見せてくれた。だから自分の助手にも“めちゃくちゃに失敗してもいい。大事なのはそこで諦めないこと。目の前のことに一生懸命向き合えば、いつかその経験が血となり肉となる”と伝えています」
【プロフィール】
山田康介(やまだ・こうすけ)/1976年福岡県出身。撮影監督。2005年に『単騎、千里を走る。』にて木村大作撮影監督の撮影助手を務める。2011年『神様のカルテ』にて撮影監督デビューを果たす。代表作に『シン・ゴジラ』 『羊と鋼の森』などがある。
※女性セブン2023年11月30日・12月7日号