挫折しそうになったときどうするか?
「ハーバード?? なにを言っとるんや、あんたは」
過去の黒歴史を知っている両親からは、あきれられて反対すらされなかった。またあの子のお熱がはじまった、そっとしておこうというように。
紛争地で働いている間に、偏差値の価値観は吹き飛んだ。
インターナショナルなチームでは、日本のどこの大学を出たかなどは聞かれもしない。そんなことよりも、チーム内で与えられた役割がこなせる人かどうかを見られる。現場では余分な人をやとう余裕はなく、一人ひとりの仕事が超重要だからだ。
また人間的な大きさや強さ、優しさがなによりも求められる職場だった。そんなところでは、偏差値がもつ意味はなかった。
でもまだ、やっかいなコンプレックスが残っていた。
二度にわたる大学受験の失敗で、“おじさん”になってもテストや試験というものに完全に苦手意識があったのだ。
大学院に留学するには、当然試験がある。英語を母国語としない人たちが大学院の授業についていけるかを測るTOEFL。そしてアメリカ人も受験する、英語の文章問題、数学、論文からなるGRE。この2つで高いスコアを出す必要があった。
普段国境なき医師団で英語を使って仕事をしているので、ある程度通用するかと思ったら、あまかった。TOEFLにはTOEFL用の、GREにはGRE用の対策をしっかりしなければ、まったく歯が立たなかった。
なんでもそうだが、やる気があればある程度のところまでは比較的すぐに伸びる。問題は、そこからだ。ハーバード・ケネディスクールのTOEFLの最低ラインは、120点満点で100点。僕は90点台を幾度となくとった。肩書きが「TOEFL90点台のコレクター」になってしまうぐらいに。
おそろしいことに、毎日すごく勉強したのに、点数が下がることさえあった。
心が折れそうに何度もなった。
学生時代とは違い、そもそも仕事をしながらの勉強。
仕事場から家に帰ってきたとき、もうすでに十分疲れている。夕ご飯を食べてシャワーを浴びたら、ニュースを少しだけチェックして早く寝たい。
「もう十分やっているじゃないか」
ベッドが手招きをし、やわらかなふとんが耳元でささやいてくるように感じた。