そんなとき、僕にはいつもある人たちの顔が浮かんできた。シリアのアレッポで一緒に働いた現地スタッフ。病院が砲撃され、命を落としてしまった小児科病院の病院長。空爆にあった現地のコミュニティの人々──。

 彼らのために、自分にはやるべきことがあると信じていた。

 それは、紛争地で援助を必要としている人たちの医療へのアクセスを増加させて、助かるはずの命が助かる環境をつくること。

 これが紛争地の現場を見てきた僕の使命であり、自分のキャリアのゴールだった。

 そのために医療への攻撃を少なくさせるアドボカシー戦略をハーバード・ケネディスクールで描きたい。これが、僕の志望理由だった。

 そんな人間が、ちょっと疲れているからといって、フラフラとベッドに行ってはいけない。

「僕はみんなの期待を背負っているんだ。あの人たちのためにやらねば」

 そう思っては、あらゆる目を覚ます方法をためした。

 すっぱいものを食べ、シャワーを浴び、歯を磨くなどするのが効果的だった。

 最終的に、10回ほどTOEFLを受け、なんとか100点を超えることができた。

 自分のためにあまり頑張れない人は、自分が頑張れる対象を見つければいい。

 その人たちへの思いが、自分をより強くする。

(了。前編から読む

【プロフィール】
村田 慎二郎(むらた・しんじろう)/静岡大学を卒業後、就職留年を経て、外資系IT企業での営業職に就職。2005年に国境なき医師団に参加し、現地の医療活動を支える物資輸送や水の確保などを行うロジスティシャンや事務職であるアドミニストレーターとして経験を積む。2012年、派遣国の全プロジェクトを指揮する「活動責任者」に日本人で初めて任命され、援助活動に関する国レベルでの交渉などに従事。2020年、日本人初、国境なき医師団の事務局長に就任。現在は、長期的な観点から事業戦略の見直しと組織開発に取り組み、学生や社会人向けのライフデザインの講演も行っている。NHK総合「クローズアップ現代」「ニュース 地球まるわかり」、日経新聞「私のリーダー論」などメディア出演多数。

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