数多くの政界捜査を取材してきたジャーナリストの伊藤博敏氏が語る。
「焦点は安倍派の事務総長経験者や派閥から多額のキックバックを受けて裏金にしていた議員たちを摘発できるかどうかです。ちょうど1年前に似た構図の事件があった。麻生派の薗浦健太郎・元代議士がパーティー収入を少なく記載して政治資金規正法違反に問われ、会計を担当した秘書だけでなく、議員本人も略式起訴されて罰金と公民権停止の略式命令を受け、議員辞職に追い込まれた。
東京地検はその時の捜査を通じて政治資金パーティーを利用した裏金づくりのカラクリを理解し、判例もできた。その上で満を持して安倍派の裏金づくりの捜査に乗り出したわけです。まずは派閥の会計責任者が追及され、さらに歴代の事務総長が会計責任者に指示したり、経理の報告を受けて了承したかを解明し、政治家の責任に踏み込んでいく方針だと考えられる」
捜査のキーマンとなっているのが、安倍派事務局長で同派の政治団体「清和政策研究会」の会計責任者を務めるX氏だ。冒頭、本誌が直撃した白髪の男性である。
安倍派の裏金づくりにどういう役割を果たしていたのか。
慌てて確認に奔走
安倍派議員のベテラン秘書が言う。
「X氏はNTT出身で子会社の役員や監査役を務め、4年ほど前に安倍派の事務局長として迎えられた。同じNTT出身の世耕弘成先生(自民党参院幹事長)の紹介でした。民間企業出身だから政治は素人同然だが、われわれ秘書には『高木事務総長がこう仰っている』などと幹部の威光を振りかざす。選挙のことで相談に行くと、『議員が直接言ってこい』と秘書は相手にしない態度でした」
世耕事務所に経緯を尋ねたところ締め切りまでに回答はなかったが、事務局長に就任したX氏は会計責任者として安倍派の資金を管理することになった、いわゆる派閥の金庫番である。
同派は所属議員にノルマを課して派閥のパーティー券を売らせ、ノルマを超えて売りさばいた議員にはその分の代金をキックバックしていたとみられる。
「キックバックはだいぶ昔から行なわれていたことですが、かつては派閥が領収書を出したり、議員側が政治資金収支報告書に記載するなど、それが可視化できるようにしていた時期もあった。しかし、そうすると集金力のある有力議員が多額のキックバックをもらった際に、派内で『あの議員は自分で多額の献金を集めているのに、派閥はそんな裕福な議員に金を戻すのか』という不満の声が高まるようになった。
それが面倒なのでキックバックは現金で渡し、領収書を取らずに政治資金収支報告書にも載せない裏金にしたと聞いています。派内の議員にも金額がわからないようにするためです。このシステムはX氏の前任者の時代にはもうできていて、X氏は引き継いだかたちです」(別の秘書)