米国のキッシンジャー国務長官と対談する田中角栄氏(時事通信フォト)

米国のキッシンジャー国務長官と対談する田中角栄氏(時事通信フォト)

「そう言われて悔しかったら今すぐ鳥取に帰って、毎日毎日、くまなく挨拶回りをしろ」と。だから懸命に選挙区を回った。羽田孜さんや小沢一郎さんといった2代目の候補者は、皆同じことを言われたみたいです。だから、角栄先生の教え子は地元回りを大切にする。それは「常に有権者に接し、国民の声を直接吸い上げることが政治の原点だ」という教えだと思います。

〈石破氏が出馬した当時は中選挙区制で、鳥取全県区にはすでに田中派の議員がいた。そのため、石破氏は亡くなった中曽根派の議員の後継として出馬することになった〉

 角栄先生はその時、こう仰いました。「石破な、お前は田中派からは出られない。お前がどうしてもオレと一緒にやりたいって言うんだったら、今回は見送れ。だがな、国会議員になれるチャンスってのは、10年に1回あるかないかだ。一生国会議員になれないかもしれんぞ」。そしてこう付け加えた。「俺もいつまでも力があるわけじゃない。派閥は永遠ではない」。

 その言葉通り、後に田中派を割って竹下派が結成されました。どんな強固な派閥でも、権力を前にすれば諍いが起き、分裂する。そのことを角栄先生はご存じだった。

 ロッキード裁判の逆風の中で行なわれた1983年の総選挙では、田中派の議員に「お前たち、選挙では田中の悪口を言ってこい。“俺は田中派だが、角栄は許せない”と言って当選してこい!」とハッパをかける場面もありました。政治とは何か、選挙とは何かを一番知っている政治家でもあった。田中軍団で学んだあの時代がなければ、今の私もなかったでしょう。

【プロフィール】
石破茂(いしば・しげる)/1957年鳥取県生まれ。衆議院議員。慶應義塾大学法学部卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)を経て1986年に衆議院議員に全国最年少議員として初当選。以来当選12回。防衛大臣、農水大臣、初代地方創生担当大臣などを歴任。

※週刊ポスト2023年12月22日号

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