ライフ

東大卒エリート弁護士が、「自称アーティスト」を名乗る理由

弁護士をしながら、役者として年間8本の劇場公開映画に出演。みやたにさんのアトリエにて

弁護士をしながら、役者として昨年は年間8本の劇場公開映画に出演。精力的にアート活動もおこなうアトリエにて

 弁護士と俳優。働き方が多様化する時代でも、珍しい二足以上の草鞋を履きこなす人がいる。「みやたに」さん。東京大学法学部在学中に司法試験に合格し、大手法律事務所の弁護士に。その傍ら、2012年から「自称artist(アーティスト)」を名乗り、アート活動を始める。昨年公開され、ロングラン上映中の映画『過去負う者』(舩橋淳監督)などで俳優として活動するほか、2023年からは自ら監督として映画を撮り始める(監督名は「みやたにたかし」)。これらは「セカンドキャリア」ではなく、すべては「同時並行・現在進行形」だというみやたにさんは、「今の自分のありよう」をどのように見つけたのか。

 また、アート活動を始めた今、受験や司法試験に邁進していた過去の自分を「ダサいやつだった」と振り返る。エリート街道を歩んできた弁護士が、中年を過ぎてから獲得した新しい価値観、人生観を伺った。

弁護士には20年で見切りをつけようと思っていた

──弁護士以外の仕事をしたいと、いつごろから考えていたのでしょうか?

 弁護士って定年がないんです。「ずっと出来ると思ってやっていたらダメだな」と、仕事を始めた時点で思いました。20年で切りをつけようと。そうしたら、もう1回転、何か20年できるぞと。一方で、「これをしよう」という具体的なアイデアは持っていませんでした。20年後の景色は20年後にしか見えないから。計画や目標は励みになりますが、同時に、そっちに行くと決めてかかると見えなくなるものもあります。そのときにやりたいこと、やるべきことをやろうと漠然と考えていました。

──では20年たって、俳優やアーティストになりたくなったのですか?

 ところが全然そうではないんです。ちょうど弁護士を始めて20年目が終わる3月に、東日本大震災が起きました。知り合いが被災して、原発事故もあって、僕なりにいろいろ考えましたし、自分の無力さを痛感しました。それで、今は自分ができることをやっていくしかない、と思ったんです。僕は弁護士が得意なんだから、今後も弁護士をやることが社会のためになるだろうと。当時、弁護士を辞めてまでやることが思い浮かんでなかったというのもあります。

──弁護士に集中しようと思ったところから、一転、どのように俳優にたどり着いた?

 当時、震災以外にも心が晴れないことが相次いで、気が塞いでいたので、早朝よく近所を散歩していたんです。ふとカメラを持って出かけているうちに「写真を習ってみようかな?」と思い立ち、たまたま近所に教えてくれるプロの方がいたから習い始めました。その人と映画の話をしているうちに、映画っていわば「写真の集合体」じゃないですか。映画を観たらきっと写真の勉強にもなるなと思って、集中して観るようになりました。年間400本くらい観ていましたね。

 映画を観ているうちに、好きなカットを絵に描きたくなったんです。そこからひたすら絵を描くようになり、映画からインスピレーションを受けて、立体作品とか、さまざまなアート作品の制作を始めました。次は映像シナリオもやってみようと思い、学校に通いました。シナリオを描くうちに、役者さんのこと何も知らないなと思って今の劇団(SHOW&GO FESTIVAL)に入り、役者修行が始まりました。

 直接的には、この劇団への参加をきっかけに舞台に立つようになり、その後、最初は今泉力哉監督に声をかけていただいて、映像作品にも出るようになっていったという経緯です。いわば「芋づる式ご縁」で、俳優になりました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト