時代を超えたひとり親の子育て
そして、ぶっちぎりで1位に輝いたのは、冒頭で紹介した『不適切にもほどがある!』。今回、話を聞いたテレビウオッチャーたち全員が今作をランクインさせた。
番組のホームページで“意識低い系タイムスリップコメディ”と銘打つだけあり、阿部サダヲ演じる主人公の中学校体育教師・小川は職員室でたばこをガンガン吸い、生徒に対して「男のくせに女の腐ったようなモヤシ野郎!」などと現代においては「アウト」な発言を連発する。そんな昭和の価値観に染まった熱血教師が令和の時代にタイムスリップして騒動となるわけだが、冒頭の《当時の表現をあえて使用して放送します》とのテロップによって“コンプライアンス対策”に抜かりはないようだ。
ほかにも小川が「純子(娘)がチョメチョメしちゃう!」と心配したり、1980年代におニャン子クラブの衣装として起用され一大ブームとなったファッションブランド「セーラーズ」と間違えて偽物である「セイヤーズ」のトレーナーを純子にプレゼントするなど、昭和の小ネタが詰まった愉快なドラマでもある。
シングルマザーを演じる吉田羊
脚本の宮藤官九郎とプロデューサーの磯山晶氏のタッグは『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『俺の家の話』(いずれもTBS系)などに次ぐ14作目となる。おふざけばかりのような今作にも、過去の2人の作品に通じる重要なメッセージが込められていると高堀さんが語る。
「クドカン・磯山コンビの過去の作品にはほぼすべてに“自由に生きることは正しい”というメッセージが入っています。例えば『池袋〜』は奔放な不良少年が主人公で、『俺の家〜』は能楽の家を継ぐことが決まっていながらも、プロレスラーになる男の話でした。今作はコンプライアンスでがんじがらめになった現代を茶化しつつ、根柢では自由に生きる大切さを訴えています。一方で、このコンビは人を苦しめる行為にはずっと否定的。2話までは昭和の価値観を若干肯定するような内容でしたが、セクハラやパワハラが人を苦しめることは事実なので、この先の物語では昭和の価値観ももっと批判されていくはずです」
吉田さんも「意外と社会派ドラマです」と語る。
「阿部さんと、社会学者役の吉田羊さんは役どころがシングルファーザーとシングルマザー。昭和の時代と違って、いまは家族形態が変わってきています。いわゆるホームドラマのような家族像が崩壊した現代において、時代を超えたひとり親の子育てを描くことで古い家族観を打破しようという意欲を感じます」
識者は絶賛するものの、世帯視聴率は初回7.6%で、2回目7.1%。「伸び悩んだのは“観る人”を限定したからかもしれない」と指摘するのは、高堀さんだ。
「1980年代に青春期を送っていない人にはわからないギャグや単語が少なくない。まさに宮藤さん世代の50代前後がメインターゲットなので、視聴率が爆発的に伸びないのかもしれませんね」(高堀さん)
『さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜』主演の西島秀俊
生きる時代も、働く場所もまったく異なるさまざまなオヤジが、家族のために世のために奮闘する今クールのドラマ。しかし、超人気男性俳優を主演に据えておきながら、今回のランキングでは11位と残念な結果になってしまったのが、『さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜』(TBS系/日曜21時)だ。西島秀俊演じる元天才指揮者が存続の危機にある市民オーケストラを救うために奮闘する物語だ。
「昨年1月期に日本テレビ系で放送されたドラマ『リバーサルオーケストラ』と設定がほぼ同じで、既視感だらけ。西島さんをキャスティングしてこの出来なのは残念です。1年あれば、少しは変更の余地もあったはずなので、テレビ局の皆さまにはほかの局のドラマも注視せよとお伝えしたいです」(吉田さん)
冬ドラマランキング
●ドラマ評論家・成馬零一さんの冬ドラマベスト3
第1位『お別れホスピタル』(NHK 土曜22時~) ※TVerで配信されていないので、ランキングからは除外
第2位『不適切にもほどがある!』
第3位『春になった』
ワースト『君が心をくれたから』
●ドラマコラムニスト・吉田潮さんの冬ドラマベスト3
第1位『不適切にもほどがある!』
第2位『君が心をくれたから』
第3位『グレイトギフト』
ワースト『さよならマエストロ ~父と私のアパッシオナート~』
●放送コラムニスト・高堀冬彦さんの冬ドラマベスト3
第1位『正直不動産2』(NHK 火曜22時~)※TVerで配信されていないので、ランキングからは除外
第2位『不適切にもほどがある!』
第3位『厨房のありす』
ワースト『婚活1000本ノック』
※女性セブン2024年2月22日号