そう。この世には自分に見えている世界とそうでない世界があり、無辜の人の加害性にも著者は意識的だ。

「夏の戦争特番なんかでも、軍部を煽った市民には何の批判もないまま80年が過ぎ、不都合なことは見ないことにしてきた日本人は、何かしら加担してますよね。

 贈賞式でちらっと話したんですが、去年結婚して、年内に親になるくらいラブラブなんで、次はノロケ小説を書こうとしてたんです。『苦役列車』のハッピー版みたいな(笑)。でも書き始めてすぐ意識がガザの方に行っちゃって、自分はメッチャ幸せで充実してるけど、それだけではもういられなくなった。

 ただ説教臭くなるのも嫌なんで、読者の中で像を結んだイメージと自分の伝えたいことが1ミリ重なればそれでいいのかなって、今は思ってます」

 少なくとも視界を広げ、解像度を上げた時に、何を見ても目を背けないために必要な支えが本書には溢れている。例えば友や信頼や正直さや〈やっぱし愛〉、だ。

【プロフィール】
大田ステファニー歓人(おおた・すてふぁにー・かんと)/1995年東京都生まれ。日本映画大学卒。在学中に関川夏央氏のゼミで書く面白さにめざめ、現在はゴミ収集清掃員として激務の傍ら執筆。群像新人賞への応募を経て、昨年『みどりいせき』で第47回すばる文学賞を受賞し、本年デビュー。単行本化前から〈異例の万バズげと!〉(帯より)級の話題を呼ぶ。身長は「じゃあ196cmで(笑)。体重は185kgで、血液型は、JB型にします(笑)」。

構成/橋本紀子 撮影/国府田利光

※週刊ポスト2024年3月1日号

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