ライフ

「単独忍び猟」のリアル 冬山で獲物が残した「4次元パズル」を解く【連載・元NHK自然番組ディレクターが明かす「僕が猟師になったワケ」】

「山の歩き方」は全て、野生の動物たちに教わった。(撮影:大川原敬明)

「山の歩き方」は全て、野生の動物たちに教わった。(撮影:大川原敬明)

 今シーズンは、北海道でも暖冬が続いている。そうした気候の変化は、山に住む動物たちの生態にも影響を与える。北海道のほとんどの地域では、猟期は10月から3月までと定められているが、残された時間の中でハンターたちは冬山へと向かう──。

 元NHKディレクターの黒田未来雄氏が転身の経緯を明かすシリーズの第4回(第3回を読む)。単行本『獲る 食べる 生きる 狩猟と先住民から学ぶ“いのち”の巡り』より抜粋・再構成。

 * * *
 獣の痕跡を追い、一人で山を歩くのが「単独忍び猟」の醍醐味だ。

 爪先が尖っているため、深い雪を嫌うエゾシカは、厳冬期には風で雪が飛ばされやすい稜線を歩くようになる。鉄砲を担ぎ、その足跡を追う。あっという間に心拍数が上がり、肩で息をするようになる。

 たまに足跡は稜線から外れ、なぜか深い雪の中に入ることもある。不可解な行動を無視して、歩きやすい尾根筋を辿ってゆくと、大きな倒木に進路を遮られたり、崖が崩れていたりで、結局は引き返さざるを得ない。

 山の歩き方は全て、地形を知り尽くした動物たちが教えてくれる。そして、その足跡の先には必ず彼ら自身がいるはずだ。

 しかしながら、ターゲットに追い付くのは簡単ではない。鹿は人間より耳も鼻もいい。目はそれほど良くないと言う人もいるが、僅かな動きを察知する能力では全く敵わない。

 鹿に勘付かれないよう、木や岩の陰に身を隠しながら慎重に進むが、何百メートル離れていようと、僕が木の陰から顔を出した瞬間に猛然と走り去ってしまう。一旦安全な距離まで逃げると、あとは一定の間隔を保ちながら、僕と同じ速度で移動してゆくだけ。こうなってしまうと、どれだけ歩こうが、もう追い付けはしない。

 人間のほうが圧倒的に不利な状況で行われる隠れん坊。鬼はむしろ鹿のほうだ。彼らに一旦見つかってしまったが最後、一瞬でゲームオーバーだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン