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浅倉秋成氏、最新作で描いた家族の物語 「何にでも結論を付けたがる空気が色濃いけれど、言い切れない場合は保留する手だってある」

浅倉秋成氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

浅倉秋成氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

 現在累計45万部を突破し、今秋には映画も公開予定の『六人の嘘つきな大学生』、通称・六嘘では就活。2022年の『俺ではない炎上』ではそもそも炎上とは何かなど、既存の価値観や常識を悉く問い直し、ミステリー的にも目の前の景色を鮮やかに覆してみせた、〈伏線の狙撃手〉こと、浅倉秋成氏(34)。

 注目の最新作『家族解散まで千キロメートル』でも、家族とは何かという究極のそもそも論に挑みながら、読み口はポップで笑える珍道中風だったりと、一層の進化を感じさせる。〈喜佐周〉は、山梨県都留市の実家から八王子市役所に通う29歳の公務員。だがそれもこの正月までで、1月4日には両親は大月に、八王子署勤務の恋人と結婚予定の周も新居へと越し、増改築を重ねた古い家屋は既に解体が決まっていた。

 ところが、会社経営者で埼玉に住む長男〈惣太郎〉やその妻で元地下アイドルの〈珠利〉、甲府で婚約者の〈賢人〉と同棲中の姉〈あすな〉も総出で片付けに励む中、倉庫から謎の木箱が見つかる。中には十和田白山神社で盗難に遭ったとテレビで報じられていた〈ご神体〉らしき仏像が……。惣太郎は舌打ちする。〈こういうのは親父だよ〉と──。

 実は〈奇行は父のお家芸〉というのが喜佐家の常識。肝心な時ほどそこにいない父の尻拭いをすべく、山梨から青森まで仏像を返しに行く旅が始まるのだった。

「次は何を書こうかと考えた時に、大学生も社会人も書いたし、次は結婚かな?くらいの感じで、家族物のミステリーという大枠だけが決まっていったんです。ただそういう時に『そもそも家族とは何ぞや』という大前提から入るのが僕の癖みたいなもので、自分の周りの人たちと、どんな家族、家庭で育ったのかを腹を割って話し合ったり、文献を読み込んだりすると、概ねどこの家族も平凡で、概ねちょっと変なんですよ。

 つまり家族という単語で括れないのが家族なんだな、多様性というと陳腐だけど、いろんな形があるんだってことがわかってきて、逆にその家族を分解したら何が核に残るのかを考えた結果、この喜佐家の造形や謎そのものが出来ていきました」

 まずは娘の婚約者が挨拶に来た正月すら家にいない61歳の父〈義紀〉。電子機器会社を周が小3の時に辞め、最近ホームセンターの仕事も辞めた〈働かない、動かない、家にいない〉父は、不意に出かけたかと思うと〈いちご煮〉や東京ばな奈といった土産を買ってきて、家族も特に父の不在を気にかけない関係が続いている。

 端緒は不貞だった。周がまだ子供の頃、父は町で唯一の玩具店〈ショップ栗田〉の娘さんと例の倉庫で行為に及ぶ現場を皆に目撃され、娘さんは噂に追われる形で町を去った。その際、父はショップ栗田のマスコット〈おもちゃん〉を盗み出し、倉庫に隠す奇行にまで及び、件の木箱=父の仕業と皆が考えるのも無理はない。

 そんな父を責めるでもなく、毎年誰も食べないおせちを律儀に作り続ける母〈薫〉は、〈結婚するまでは、どうかこの家にいて欲しい〉との規則を課すが、惣太郎は大学進学で上京、舞台美術制作会社に勤めるあすなも無断外泊を続けた末に同棲を告白。往復3時間かけて通勤し、ルールを守りきったのは周だけだった。

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