ライフ

【メフィスト賞受賞】金子玲介氏インタビュー「時間と共に気持ちが離れ、忘れていく中で残るものは何か、小説を通じて考え続けたい」

金子玲介氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

金子玲介氏が新作について語る(撮影/国府田利光)

〈山田は二年E組の中心でした、と通夜に参列した生徒は口々に語った〉と、いきなり1行目から主人公の死亡が告げられる、金子玲介氏のメフィスト賞受賞作『死んだ山田と教室』。その「口々に」の証言から今少し引用を続けてみよう。

〈山田、まじでおもしろくて、山田がいるだけで、クラス全体がすげぇ明るくなって、山田いなくなってまじ信じらんないっつーか、明日から二学期はじまるんすけど、どうやって過ごせばいいかわかんねぇっつーか〉〈山田くん、誰とでも、楽しそうに話すんです。本当に、誰とでも〉……。

 要は文句なしにいいヤツだった〈啓栄大学附属穂木高等学校〉、通称・穂木高の〈山田〉が飲酒運転の車に撥ねられて死亡し、35人に減った教室で異変は起きる。塞ぎこむ生徒達を見かねた担任の〈花浦〉は席替えを提案するが反応は薄く、そんな時だ。〈いくら男子校の席替えだからって盛り下がりすぎだろ〉〈もっと先生に反応しようぜ〉──。山田の声だった。

 こうして教室のスピーカーに憑依し、声だけになった山田との日々は始まり、その一見バカバカしいやりとりに読む者は腹を抱え、涙し、気づけば愛してしまうこと必至の青春譚である。

「お察しの通り、私自身が男子高の出身でして、執筆中は当時のことを思い出しながら書いていました。

 元々私は純文学系の賞に応募していたんですけど、当時から会話を書くことと、人の生死に興味があった。特に会話は書くのも読むのも好きで、現代口語演劇を観るのも大好きなんですけど、どうしても人が死ぬと会話って重くなるんですよ。例えばバディ物ミステリーの傑作は多々あるけれど、人が死んでるのにこんなに楽しく喋れるだろうかって、違和感があったんです。

 そこで人が死ぬ話と軽快な会話を両立させる方法を考えた結果、山田がスピーカーに憑依するこの着想が生まれたんです。彼と死んだ後も話せるなら、わりとみんなワチャワチャ喋っちゃうんじゃないかと」

 確かに人は死者に鞭打つことを嫌い、思い出を美化しがちだ。冒頭の山田像もその類の世辞かと思いきや、どうやら本当らしいことがわかっていく過程も面白い。

「あれはお通夜での話だし、空々しく感じていた読者が、えっ、山田って本当にいいヤツなんだっていう、軽い裏切りになっていれば嬉しい。ミステリーに関してはエンタメ系の賞に挑戦する前に一から勉強してはいて、本作でもミステリーっぽいギミックや雰囲気を効果的に使ってみたつもりです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《あなたとの旅はエキサイティングだった》戦力外の前田健太投手、元女性アナの年上妻と別居生活 すでに帰国の「惜別SNS英文」の意味深
NEWSポストセブン
1992年にデビューし、アイドルグループ「みるく」のメンバーとして活躍したそめやゆきこさん
《熱湯風呂に9回入湯》元アイドル・そめやゆきこ「初海外の現地でセクシー写真集を撮ると言われて…」両親に勘当され抱え続けた“トラウマ”の過去
NEWSポストセブン
笑顔に隠されたムキムキ女将の知られざる過去とは…
《老舗かまぼこ屋のムキムキ女将》「銭湯ではタオルで身体を隠しちゃう」一心不乱に突き進む“筋肉道”の苦悩と葛藤、1度だけ号泣した過酷減量
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:
【激太りの近況】水原一平氏が収監延期で滞在続ける「家賃2400ドル新居」での“優雅な生活”「テスラに乗り、2匹の愛犬とともに」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
「身内にゆるいねアンタら、大変なことになるよ!」 斎藤元彦兵庫県知事と「merchu」折田楓社長の“関係”が県議会委員会で物議《県知事らによる“企業表彰”を受賞》
NEWSポストセブン
“ボディビルダー”というもう一つの顔を持つ
《かまぼこ屋の若女将がエプロン脱いだらムキムキ》体重24キロ増減、“筋肉美”を求めて1年でボディビル大会入賞「きっかけは夫の一声でした」
NEWSポストセブン
チームを引っ張るドミニカ人留学生のエミールとユニオール(筆者撮影、以下同)
春の栃木大会「幸福の科学学園」がベスト8入り 元中日監督・森繁和氏の計らいで来日したドミニカ出身部員は「もともとクリスチャンだが幸福の科学のことも学んでいる」と語る
NEWSポストセブン
横山剣(右)と岩崎宏美の「昭和歌謡イイネ!」対談
【横山剣「昭和歌謡イイネ!」対談】岩崎宏美が語る『スター誕生!』秘話 毎週500人が参加したオーディション、トレードマークの「おかっぱ」を生んだディレクターの“暴言”
週刊ポスト
”乱闘騒ぎ”に巻き込まれたアイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー)」(取材者提供)
《現場に現れた“謎のパーカー集団”》『≠ME』イベントの“暴力沙汰”をファンが目撃「計画的で、手慣れた様子」「抽選箱を地面に叩きつけ…」トラブル一部始終
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン