「これはある保険会社から持ち込まれた相談ですが、歯周病が原因で抜歯したと同時にインプラントを埋入した患者さんがおられました。しかし治療後、膿が出て疼痛が治まらない。担当医に相談しても『経過観察』と言われるばかりだったそうですが、最終的にはインプラントの撤去と肉芽組織の再掻爬を受けて、その部分の治癒を待ったうえで再埋入。結局は当初の説明から数か月余計に時間がかかったそうです。
一般的に、抜歯を必要とするほど悪い状態になっている歯の周囲には、異物を排除しようとする生体本来のシステムが働くことで肉芽組織ができ、細菌も多く存在する。そのような状況下にインプラントが埋入されると、生体組織はインプラントも異物と認識して、排除しようするのです。治療期間が長くなってしまうことはインプラントの短所の1つです。
それを解消するため、『即時○○』なる言葉が散見されます。私自身、『抜歯即時埋入』で30年以上問題なく経過している経験がありますが、すべての患者さんに適したものではないと考えています」
「入れたその日から噛める」とホームページで宣伝をしている歯科医院もよく見受けられる。これは「即時荷重」と表現されるもので、その歴史は30年に満たない。症例によっては可能なケースもあるが、手放しに推奨するのは危険だと小宮山歯科医師が続ける。
「即時荷重法を頭から否定はしませんが、インプラントと骨を結合させるためには時間がかかります。私はよく患者さんに、『骨折するとギプスや金属で固定しますが、しっかりしているようでも、その日から飛び跳ねはしないでしょう?』と問いかけます。
骨折の場合、つなげる両側の骨は血液も通っており生きていますから、数週間で治癒します。しかしインプラントの場合、片方は金属です。組織となじむとはいえ、両者が結合するためには倍の時間を要しても不思議ではありません。生体組織の治癒には時間がかかる。これが自然の摂理です。
かつては、下顎では3か月、上顎では5〜6か月後に力を加えることが安全とされてきました。ただインプラントの表面の改質や術式の工夫、また患者さんの骨質などの条件次第で、その時間を短縮することが可能になってきたことは事実です。しかし、無理をして1〜2か月早めたことで、本来ならば30年以上にわたって使えたかもしれないインプラントの寿命が縮んでしまう可能性もある。それはもったいないといえるでしょう」
このようにインプラントには少なからずリスクもあるので、その場合にどのような対応をしてくれるのか、再治療が必要となった場合の保証内容も含めて、事前に充分な説明を受けて納得してから、治療を受けることが望ましい。
また、治療後のアフターケアも重要だ。口腔内の状態が悪くなると「インプラント周囲炎」になる恐れがあるからだ。人工歯根のまわりに炎症が起こり、顎の骨が溶けて、最終的にインプラントを抜かざるを得なくなる。医療法人貴和会銀座歯科診療所の松井徳雄歯科医師が話す。
「歯周病や虫歯、外傷や破折などどうして歯を失ったのか、その原因を患者さん自身がしっかり認識していなければ、一度治療がうまくいったとしてもその後また同じことが起こる可能性があります。