1989年 前年に結婚し、この年の映画『風の又三郎 ガラスのマント』では父親役を務める
丹波さんが上から降りてくる気配を感じた
実は草刈はそれまで、芝居自体を楽しめたことがなかったという。なぜなら毎回演技に必死で楽しむだけの余裕がなかったから。しかし、三谷さんの台本によるNHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)は次の台本が待ち遠しくなるほど楽しめたと笑みを漏らす。
「『真田丸』では、主人公・真田幸村(堺雅人)の父・真田昌幸役を演じたのですが、これはかつて大河ドラマ『真田太平記』(1985年)で故・丹波哲郎さんが演じた役なんです。ぼくはこのとき、主人公の幸村を演じたのですが、時を経てまさかその父親役をやるなんて……」
三谷さんは草刈に、
「丹波さんを超えましょう」
とはっぱをかけたという。
「丹波さんには、そこにいるだけで人が集まってくる、まさに親父のような存在感がありました。彼の笑顔は皆を安心させてくれるんです。そんな人を超えるなんてぼくには無理だと思いつつ、常に丹波さんを意識して誠心誠意演じていたら、丹波さんが上から降りてくる気配を感じたことがありました。“おれが愛した役をちゃんとやれよ”という声まで聞こえた気がして頼もしかったですね」
『真田丸』は草刈の役者人生でいちばんといえる作品になった。
「デビュー以来、2度目の俳優人生はこの作品から始まりました」
【プロフィール】
草刈正雄(くさかり・まさお)/1952年9月5日、福岡県小倉市(現・北九州市小倉北区)生まれ。1970年、資生堂の男性化粧品のCMでモデルデビュー。1974年、『卑弥呼』で映画デビューし、『復活の日』や『汚れた英雄』などの話題作で主演を務める。以後、俳優、歌手、司会者として、活躍の場を広げる。NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)でも話題に。2009年から、教養バラエティー番組『美の壺』(NHK BSプレミアム)でナビゲーターを務める。
取材・文/上村久留美 撮影/政川慎治
※女性セブン2024年9月5日号
