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仁義なき教皇選挙「コンクラーベ」

「下馬評の高い枢機卿ほど選ばれない」教皇選挙“コンクラーベ”過去には人気者の足をすくうスキャンダルが続々、進歩派・リベラル派と保守派の対立図式も

2013年の教皇選挙のために礼拝堂に集まった枢機卿(Getty Images)

2013年の教皇選挙のために礼拝堂に集まった枢機卿(Getty Images)

 教皇フランシスコの死去を受け、14億人の信徒を抱えるカトリック教会のトップに立つ「神の代理人」を選ぶ教皇選挙(コンクラーベ)が開催──奇しくも、この世界的ニュースの直前に公開された映画『教皇選挙』では、ライバルを蹴落とそうとする聖職者たちの暗闘が描かれ異例のヒット作となった。だが、現実世界では、映画より激しい権力闘争が展開されるのだという。ノンフィクション作家・広野真嗣氏がレポートする。【前後編の前編】

建物の周囲に妨害電波

 コンクラーベとは、「鍵のかかった部屋」を意味するラテン語に語源がある。外部との接触を絶った建物にこもり、世界中から集まった133人の「枢機卿」たちが、誰か1人が3分の2の得票を得て「教皇」となるまで、ひたすら投票を重ねる。

 枢機卿とは、教皇に次ぐ地位にある高位聖職者。

 投票が行なわれるのはイタリア・ローマ市内に位置し、カトリック教会の総本山として知られる都市国家・バチカン市国に建つ「システィーナ礼拝堂」だ。

 12年前の前回選挙を終えた直後、この密室の扉の奥から姿を見せたカナダ人の有力枢機卿が最初に発したのは、「聖なる雰囲気でした」という言葉だったという。

 当時、バチカンにある教皇庁立ウルバノ大学に留学中で、枢機卿の言葉を直接耳にしたというカトリック東京大司教区司祭の田中昇氏がその真意を読み解いた。

「映画『教皇選挙』では封鎖された建物に入る枢機卿たちが通信機器を預けるシーンが描かれましたが、現実には仮に持ち込めても建物の周囲に妨害電波が発せられ、通信できない。選挙を終えた後も、中での出来事を外部に漏らせば破門です。カナダ人枢機卿が言える範囲で伝えようとしたのは、投票を含めたすべてが“儀式”の重みをまといながら執り行なわれたということなのだと思います」

 投票初日は、午前に枢機卿たちが参集してミサを行ない、午後に礼拝堂に入って施錠される。祭壇に描かれたミケランジェロの『最後の審判』の前で、初日の夕方に1回目の投票がある。そこで3分の2に達しなければ翌日に持ち越され、以降1日に4回まで投票の機会が設けられる。

 投票の前後には祈りやミサも行なわれ、過密なスケジュールをこなしていくことになるのだ。

 映画では、階段の踊り場で声を潜めた枢機卿たちの派閥の謀議が行なわれるシーンや、食堂で有力候補のスキャンダルが暴かれる場面が描かれたが、実際には、建物に入って鍵がかかる前にこそ、より激しい根回し、謀議そして駆け引きの火花が散らされる。

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