アントニオ猪木「最期の2か月」を記録したノート

アントニオ猪木「最期の2か月」を記録したノート(江端氏提供)

「秋を迎えられるかも」

──ところで「ガリガリ君を好んでいた」という報道を聞きましたが。

「終末期の方は少しずつ口のなかで溶ける氷を口に含みたがるのですが、猪木さんもそうでした。そこで私自身もガリガリ君好きだったので、カットして出してみたら『……いける』って(笑)。そこから手放せなくなりました。ガリガリ君には『梨』『みかん』とか種類があるんですが、好みはシンプルに普通の『ソーダ』」

──そういうことだったんですね。

「そこで閃いたんです。栄養補充の液体があるんだけど、不味くて飲みたがらない。でも『ガリガリ君みたいに、凍らせたら食べてくれるかも』って思って……」

──どうなりました?

「大笑いしてました。『よく考えるねえ』って(笑)。体調が上向いたので、あるときバルコニーでバーベキューをやったんです。夕暮れのいい時間に鉄板を置いて『会長、富士山が見えます』とか言いながら。喜んでましたね。それから、お客さんが来るたびに『こないだバーベキューやったんだよ』って嬉しそうに言うんです」

──いいですね。

「俄然、食欲も出てきて、例えば8月19日は、朝『牛乳・ヒレカツサンド・ドーナツ・クリームパン』、昼『磯辺焼1枚・チーズ1P・豆腐・佃こんぶ』、夜『ステーキ180g・チャンジャ・シャインマスカット』。8月20日に至っては、早朝『コーンフレーク・牛乳』、朝『おにぎり小6個』、3時のおやつに『羊かん1口』、夜『味噌ラーメン・とうもろこし・おにぎり1個』とあります」

──いい食べっぷり。

「主治医の先生が驚くんです。私自身も『秋を迎えられるかも』って思ったし、(猪木の末弟の)啓介さんは『来年2月の80歳のバースデーも……』って期待していましたが『さすがに気が早い』とは思いました。食欲は日々変わるし、数値的には予断の許さない状況が続いたので」

第3回へ続く

【プロフィール】
細田昌志(ほそだ・まさし)/1971年岡山市生まれ。鳥取市育ち。『沢村忠に真空を飛ばせた男/昭和のプロモーター・野口修評伝』(新潮社)で第43回講談社 本田靖春ノンフィクション賞、『力道山未亡人』(小学館)で第30回小学館ノンフィクション大賞を受賞。最新刊は『格闘技が紅白に勝った日~2003年大晦日興行戦争の記録~』(講談社)。

※週刊ポスト2025年6月6・13日号

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