来場所から改めて真価が問われる大の里(時事通信フォト)
大相撲が激動の最中にある。2場所連続優勝を果たした大の里(24)の横綱昇進という慶事に沸く一方、元横綱・白鵬(40)の宮城野親方が相撲協会に退職届を提出し、受理された。荒れに荒れる令和の角界を「平成の大横綱」はどう見ているのか──。数々の名勝負で空前の大相撲ブームを巻き起こした第65代横綱・貴乃花光司氏に聞いた。【貴乃花の直言インタビュー・前後編の後編。前編から読む】
大の里のライバル候補は若隆景
昭和以降で最速となる初土俵から13場所での横綱昇進を決めた大の里だが、大学卒業後に角界入りしたため年齢は24歳。中学卒業とともに入門した“叩き上げ”の貴乃花氏は所要41場所での横綱昇進時、まだ22歳だった。
「私は15歳で入門したので、大学卒業後の22歳とでは7年の差がある。その7年で床掃除やちゃんこ番などの修行をした。ただ、大の里の師匠(二所ノ関親方=元横綱・稀勢の里)はその7年の違いを知っているので、厳しくやらせたと思いますよ。理屈抜きでやっていないと、あそこまで勝てないですよ。相撲の稽古だけでなく、日常の精神を鍛練させているはず」
貴乃花氏には曙というライバルがいた。北の湖と輪島、大鵬と柏戸のように、ライバルがいることで相撲が盛り上がるが、もうひとりの横綱である豊昇龍(26)については「いかんせん体が大きくないし、下手相撲だから難しい。上手を取って相手にのしかかっていく相撲を取れないと体力的にも大変。毎場所、安定した相撲を取るのは難しいでしょう」とする。
大の里のライバル候補としてはむしろ、5月場所で小結として12勝3敗の成績を残した若隆景(30)に期待している。
「いずれ大関になるでしょう。小兵ながら、小細工しないで前ミツを取りにいく。相手を押し込む攻めの技を覚えれば、それなりに大の里にも対抗できると思いますよ。今場所の大の里も、若隆景には辛うじて勝っていた。
若隆景との一番でわかりますが、大の里は差し相撲がそんなに得意じゃない。中に入られた時は危なくて、体の大きさを活かして相手を振り回して勝った一番でした。体力差でたまたま勝つのではなく、不利な体勢からも自分の体勢に持っていけるかが、横綱を継続するために必要な鍛練になる。そこが見ものですね」
7月場所が新横綱としてのデビューになる。貴乃花氏は昇進直後の1995年1月場所で13勝2敗の優勝を果たしたが、初日の武双山戦は敗れている。
「ちょっと気持ちが行き過ぎてしまった。そこが相撲の難しいところ。ただ、初日に負けて平常心に戻れましたね。負けた一番には原因があるので、それを修正するだけ」
貴乃花氏は「負けて覚える相撲なんてないんです」と断じる。
「勝たないと勝ち方は学べない。これは理屈抜きの話。かといって何でもいいわけではありません。エルボーやカチ上げのような反則ギリギリの技を繰り出して勝つのではなく、堂々と正攻法で勝ちを収めるのが、己に克つということなんです」