国枝栄・調教師がこれまでの競馬人生を振り返る
1978年に調教助手として競馬界に入り、1989年に調教師免許を取得。以来、アパパネ、アーモンドアイという2頭の牝馬三冠などGI 22勝。通算1103勝(5月29日時点)は日本競馬史上10位で現役最多という名伯楽・国枝栄調教師が、2026年2月いっぱいで引退。この機会に華やかで波乱に満ちた48年の競馬人生を振り返りつつ、サラブレッドという動物の魅力を語る。さらにこれからも競馬がますます発展していくために細かなデータに基づいた問題を提起。新たな競馬の魅力と見方をレクチャーする「週刊ポスト」での珠玉のコラム連載「人間万事塞翁が競馬」がスタート。
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ダービーも終わって競馬界は今週から新学期、2歳馬がデビューする。
私の厩舎からもダーリングハーストという牝馬がスタンバイ。母親がフォーエヴァーダーリング、そう、現在世界ランク1位に君臨するフォーエバーヤングの半妹だ。走ることがあまり好きではないと、いろいろなところでトラブルを起こすが、彼女の場合は能力があって余裕があるからか、ゲート試験もすんなり合格した。2歳馬では母アーモンドアイの牡プロメサアルムンド(父モーリス)も先日入厩、その他にも母や兄姉が重賞を勝っている良血馬を何頭も預からせてもらっている。
調教師は70歳定年制なので、私が彼らとかかわることができるのは来年2月まで。にもかかわらずいい馬を何頭も預けていただいているのは、本当にありがたいことだと思う。引退するその日まで、今管理している馬が結果を残せるように頑張るだけだが、この機会に皆さんに競馬とか馬というものについて、調教師としてやってきたことを少しばかり紹介できればと思う。それによりこれからも馬、競馬を楽しんでいただければ幸いだ。
通算1100勝のレジェンドなんて言われているけれど、一度もリーディングトレーナーになったことはない。これだけ勝っているのにダービーは未勝利だと毎年言われる。でも、実は皐月賞も菊花賞も勝っていないんだよ。
調教師になってからも開業1年目、2年目は一桁しか勝っていないし、重賞どころか準オープンもなかなか勝てなかった。100勝したのは8年目、けっして出脚のいい方ではなかった。自分は運に恵まれていないのかと思ったこともあった。