田中角栄と、リチャード・ニクソン(時事通信フォト)
片山:昭和5年に遡ると、ハーバート・フーヴァー大統領が制定したスムート=ホーリー法は平均40%もの輸入関税を課しました。フーヴァー、ニクソン、トランプはみな共和党の大統領であり、一つの伝統ですね。
佐藤:その通りです。保護主義は決して突飛な思想ではなく、フーヴァーの1930年代にはむしろスタンダードでした。当時の経済学者フリードリッヒ・リストの思想をベースにしていて、日本の経済学者・宇野弘蔵は、保護関税政策は市場原理を無視する形となり、経済システムに障害をきたすだろうと分析し、論文を「さてどうなるか」となぞかけで終えています。この問いは今後のトランプ関税にも生きています。
片山:重要なご指摘です。ニクソン政権下の昭和47年、佐藤栄作政権時に沖縄返還が実現します。
佐藤:しかし、米軍が有事の際に返還後の沖縄へ核を持ち込んで良いとする密約が存在し、さらに米軍基地を残しての返還となった。沖縄の本土復帰時点で、日本国内の米軍基地は沖縄59%、本土41%でしたが、現在は沖縄70%、本土30%です。日本による沖縄差別の構造は、在日米軍専用施設の過重負担という形で顕在化しています。
同年、ニクソンは米中共同声明を発表し、田中角栄首相も日中共同声明に調印します。
片山:ニクソンは中ソ対立をうまく利用し、敵の敵は味方の論理で毛沢東と握手すれば、アメリカの軍事負担も減るじゃないかと現実を見極め、「名誉ある撤退」を選んだのでしょう。
佐藤:田中角栄はニクソンに倣えと決断したのでしょうが、中国から見れば日本は戦前の加害国です。大陸での侵略行為に対する人民の恨みもあるなか、ぶっつけ本番で訪中して国交回復に持ち込んだ手腕は評価できます。