柳沢きみお氏の闘病経験は『大市民 がん闘病記』にも色濃く反映されている
「レントゲンの映像を見ながら、そのクリニックの先生に大腸がんの疑いもあると言われた時は、本当に『えっ』となりましたね。『ウソだろ』と。すぐにその先生は大きな病院に入院手続きをしてくれて、タクシーでその病院へ直行となったのです。
で、紹介された大きな病院で検査を受けて、大腸がんだと言われた時も、どこか他人事のような感じで実感が湧かなかったです。正直、これを話している今でも、そんな感じが続いているような」
そう語るのは、現在『ビッグコミックオリジナル』で『大市民 がん闘病記』を連載中の著者・柳沢きみお氏(76)。『翔んだカップル』『特命係長 只野仁』『月とスッポン』『大市民』シリーズといった数多くの代表作を世に生み出し、キャリア50年を超える今もなお、漫画界の最前線で描き続ける現役漫画家だ。そんな柳沢氏は去年、大腸がんになる。
「大腸がんと判明する直前は、身体に特別な異変は感じていませんでした。ただ今にして思えば、ひどい下痢があったし、なんか疲れやすくなっていたようですが、それが『がん』のせいだったのかは、今でも正直わかりませんね。そんな最中、腸閉塞を起こしてしまい、その耐え難い痛さで病院へ行ったら、がんが見つかってしまったというわけです」
元来、「自分の主治医は自分」がモットーで、病院や医師に頼らない人生を送ってきた柳沢氏。しかしこの時ばかりは事情が違ったようで……。
「もうとにかく腸閉塞の痛さで、病院に行くしかなかったですね(苦笑)。まず近所のクリニックに行って検査を受けたら、紹介するからこのまま別の病院に行くようにと言われました。そして自分の人生で初めての“大病院”へ行くことに。夜遅かったので廊下もロビーも暗くなっていましたが、広さとその無言の圧力に圧倒されましたね。そして検査の結果、大腸がんが原因の腸閉塞という診断が下り、元々は自宅に戻るつもり満々で何の用意もしてなかったけど、そのまま入院するというまさかの展開に(笑)。
運よく個室に入れましたが、一人ぼっちになったその日の夜は、ひたすらボーゼンとしていました。若い頃から睡眠には特に気を配り、腹の出た男には絶対になりたくなかったので水泳・ストレッチ・逆立ち等の運動をしてきた、極めて“健康老人”だったので、そんな自分ががんになるとは全然思っていなかったですから……」