『記者は天国に行けない 反骨のジャーナリズム戦記』(文藝春秋刊)
当然ですが、自分にしか書けないようなものですね。タブーとされていることや人物、組織。それに新しいものにチャレンジしたい。『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』のような刑事ノンフィクションを書くと、「次も当たりやすい警察もので」となりがちだけど、そういうことはしたくない。残された時間が少ないから。
──清武さんは、「後列の人」、つまり、何かの陰で努力を続けたり、何かの後ろで支え続けたりする無名の人を取り上げたりすることが多いですよね。
僕の視点は自分と同じ無名人です。講堂に集めたら後ろの方にいるような「後列の人」ですね。経済界や大企業を描く作家は多いのに、企業社会を生きる庶民の姿を描く人は少ない。何のためにどう働き、これからどう生きていくのか。いま、生産ラインの青春は明るいのか、楽しいのか、ますます苦しいのか、低い視線のテーマは多いです。
長い間、実名と会話の復元をテーマに、ノンフィションを書いてきましたが、どうしても描けないものや、自分が夢を託すものについては、ノンフィクションノベルという形もあるのかなと思っています。
今、週刊ポストで連載している『もつれ雲』は小説です。これはチャレンジですね。ロケット博士を支えるロケットボーイズの青春を描こうとしています。モデルの糸川英夫博士が亡くなっているから心理の襞には触れようもないので、小説にしたのだけど、虚実を交え、テストパイロットの生と死や恋愛、青春を織り交ぜながら書くのは楽しいですよ。これからも新しいもの、やったことのないものに取り組んでいきたいと思いますね。
【後編 了。「君は長い物に巻かれなかったか」と問うた前編を読む】
構成/園田健也、写真/五十嵐美弥(小学館)