トランプ大統領への「逆ディール」
冒頭の高市発言をめぐっては朝日新聞がデジタル版の見出しで「認定なら武力行使も」と書き、駐大阪総領事にXで引用されたことで外交問題に発展したが、これも新型統一戦争の文脈で捉えれば、すでに中国から「世論戦」「心理戦」を仕掛けられている事態と見ることができる。
また、11月24日のトランプ米大統領と習氏による電話会談では、米側は否定したが、中国側の発表によると、トランプ氏は「台湾問題の重要性について十分認識している」と発言したという。
これにより、台湾はトランプ氏の“ディール”のカードの一つになってしまった。これは非常に危険なシグナルだ。
エプスタイン文書をめぐりコアなトランプ支持層であるMAGA(アメリカを再び偉大な国にする)派が揺らぐなか、トランプ氏が“一発逆転”の材料として狙っているのが習氏とのディールだ。
トランプ氏の弱みを察知した習氏は、9月まで購入がゼロだった米国産大豆を、電話会談翌日に大量購入。さらに米ボーイングの航空機や米国産LNG(液化天然ガス)の購入など、トランプ氏を籠絡するなど容易いとばかりに「逆ディール」を仕掛けた。
中国の新型統一戦争により、米トランプ政権は同盟国である日本より中国を重視し始めている。
これは、台湾はもちろん、日本にとってもかなり危険な兆候だ。立憲民主党の岡田克也氏が高市首相に質問した通り、台湾有事の場合、日本の物流にとって生命線であるバシー海峡が封鎖されるかどうかが非常に重要なポイントとなる。その安全確保が日本にとって死活的に重要だが、米軍の艦船が出てこない限り、「存立危機事態」には当てはまらず、日本は手出しができない。
台湾有事が日本の危機そのものに転じるリスクが、トランプの対中ディールによって高まっている現実を、日本は直視しなければならない。(談)
【プロフィール】
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策大学院客員教授。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)、『あぶない中国共産党』(小学館)など。
※週刊ポスト2025年12月19日号