トランプ大統領と習近平・国家主席(写真/AFP=時事)
軍における側近中の側近を粛清した意味
その証左となる動きが最近、中国軍内で起きた。
10月下旬、中国国防省は党中央軍事委員会の制服組ナンバー2・何衛東副主席を含めた9人について、「重大な党規律違反や職務上の重大な犯罪容疑」を理由に、党籍剥奪と軍籍剥奪を決定した。
習氏は2022年の3期目スタートに際して指導部内に後継候補を置かない「超一強体制」を確立。軍内も同様で、習派一色に染まっている。
今回粛清された何氏は、ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)の訪台後に実施した22年8月の「台湾封鎖演習」を東部戦区司令官として成功させた実績が習氏に買われ、中央軍事委副主席に大抜擢された人物。軍における側近中の側近だ。
その何氏の粛清は何を意味するのか。表向きの理由である汚職などではなく、何氏がその地位にいては2027年までに台湾侵攻の準備が整わないと判断されたか、習氏の指示に異論を唱えるなど“歯向かった”ことが原因ではないかと私は見ている。
軍人トップの粛清により、台湾併合作戦に黄色信号が灯ったと思われるかもしれない。が、実態は習氏が目指す台湾併合にとって軍の重要度が下がったと捉えるほうが、適切な評価だろう。
実は中国の台湾併合シナリオは、双方に多大な犠牲者が出るような軍による上陸作戦ではない。
習氏の「戦略ブレーン」である中国国防大学教授の劉明福・上級大佐の著書『中国「軍事強国」の夢』(文春新書)によると、台湾併合には「新型統一戦争」の手法が用いられるという。
それは「戦わずして勝つ」ことであり、「敵の心を潰す」戦争だ。劉氏は台湾の人々の戦意を挫き、人命だけではなくインフラなどを破壊せずに併合を図る手法だという。
このタイプの戦争にとって、軍のプライオリティは上陸作戦ほど高くはない。むしろ、有事の際に寝首を掻かれるリスクを考慮すると、習氏にとっても軍の存在はリスクでもある。軍の粛清は、そのリスクを排除するためだと考えられる。
