安福容疑者の高校時代。同好会写真で一番端に映っていた
会の終了後、参加者たちは当時を懐かしみたいと、高校のテニスコートまで歩いた。その道中、悟さんは安福容疑者に話しかけられたという。
「結婚して、仕事もしながら家事もやって大変だけど、頑張ってるよって言われて。えらい明るくなって良かったじゃんって思って。頑張ってねって返しました。それから5か月後に奈美子を刺しやがった」(悟さん)
犯行は土曜日の昼間で、不動産会社に勤める悟さんは出勤日だった。同会で悟さんの職場を知った安福容疑者は、その点も計算に入れた上で計画的犯行に及んだとみられる。捜査関係者は語る。
「凶器を準備しているなどの犯行状況を考えると、安福容疑者は現場を下見していたのではないか。現場は電車の駅やバス停からも離れているし、車で向かった可能性もある」
悟さんが参加した高校の同窓会は、事件発生から約15年後にも開かれている。その時は3年時の1クラスと2年時の1クラスの合同だった。両クラスを受け持った担任の先生が同じだったからで、3年生のクラスには悟さんが、2年生のクラスには安福容疑者が所属していた。ところがその同窓会に、安福容疑者は現れなかった。悟さんが思い返す。
「1999年のOB・OG会の時に過去のことは吹っ切れたみたいな感じだったので、今度会ったら酒でも飲みながら、あの時は振ってごめんねっていう会話ができるかなと楽しみにしていたんです。
でも来なかったから、安福の友人の1人に確認したら『なんか体調が悪いらしいですよ』って言われて。でもその時にまさか安福が犯人だなんて疑いもしないじゃないですか。だから『子育てしながら働いてすごいね』って呑気に声をかけようと思っていた自分がバカだなと。今反省しています」
逮捕後は容疑を認めたものの、突如として黙秘に転じた安福容疑者。現在、刑事責任能力を調べるために鑑定留置が進められているが、彼女のほうこそ反省しているのだろうか。
【プロフィール】
●水谷竹秀(みずたに・たけひで):ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)などの著書がある。10年超のフィリピン滞在歴を基に「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材を続け、ウクライナでの戦地ルポも執筆
