拘束され、移送中のマドゥロ大統領(CNP/時事通信フォト)
中ロは軍事介入してこないという“確信”
共和党の選挙戦略家は、率直にこう語る。
「トランプ氏は“やった感”を必要としている。勝てる小規模軍事行動ほど、彼にとって都合のいい舞台はない」
仮に米国がベネズエラにさらなる軍事行動を起こせば、ロシアは強く非難し、中国も「内政干渉」と批判するだろう。だが中南米専門家は、こう冷静に分析する。
「ロシアも中国も、実際に軍事介入する可能性は低い。ロシアはウクライナで手一杯であり、中国にとってベネズエラは『核心的国家利益』ではない」
この“成功体験”は、イランへの圧力強化、中東での強硬路線、さらには台湾問題をめぐる恫喝外交へと連鎖しかねない。
欧州の外交官はこう警鐘を鳴らす。
「一度、武力行使が“効果的”だと証明されれば、抑制は一気に効かなくなる」
日本にとって深刻なのは、国際秩序の前提そのものが揺らぐことだ。法の支配、多国間調整、国連決議──これらが軽視される世界で、日本はどのような立場に立つのか。外務省関係者はこう語る。
「トランプ氏がベネズエラで成功体験を得れば、次は必ず同盟国への要求を突き付けてくる。“なぜ日本はもっと負担しないのか” という形で」
在ワシントンの外交筋の間では、今後の展開は3つのシナリオに分かれると見られている。
【1】軍事威嚇止まり(短期)…空母展開と強硬発言で、ベネズエラ政権に譲歩を迫る。
【2】限定的なさらなる軍事行動(中期)…空爆・特殊作戦で政権崩壊を誘発する。
【3】地域不安定化(最悪)…難民流出と武装組織拡散で長期化する。
中南米情勢に詳しい元CIA分析官は「トランプ氏の性格と政治状況を考えれば【2】が最も現実的だ」と語る。
トランプ氏は世界を壊すのではない。世界が本来“力”で動いていることを、隠さなくする存在なのだ。ベネズエラは、その最初の実験場になる可能性がある。そしてそれは日本にとっても、「理念外交はどこまで通用するのか」を突きつける重い問いとなる。
トランプ氏との「信頼関係」を強調する高市早苗首相は、今春予定される「ワシントン詣」で何を語るのか。
ベネズエラの不安定化は、太平洋と大西洋を結ぶ世界有数の海上輸送路・パナマ運河にも影響を及ぼしかねない。年間約1万4000隻が通過し、世界貿易の約5%を担うこの運河は、日本にとっても生命線だ。通航制限や混乱は、物流コストの上昇として直撃する。
これは決して「対岸の火事」ではない。高市首相に、トランプ氏を諫める勇気はあるのか。それとも「沈黙は金」を選ぶのか。
◆高濱賛(在米ジャーナリスト)
