周到な事前工作によりマドゥロ大統領は抵抗手段を奪われた(Getty Images)
昨年10月以降活発化したCIAの監視行動
CIAはいつ準備を始めたのか。遡るべきは、昨年1月のトランプ大統領のホワイトハウスへの返り咲きの時点だろう。
それまでCIAを敵視してきたトランプ大統領は、自らに近いジョン・ラトクリフ元下院議員を長官に送り込んだ。
直後にCIA内部に設置されたのが、中南米からの麻薬流入対策を強化する「米州麻薬センター」。その最初の標的とされたのが、トランプが「麻薬組織を先導している」と批判してきたベネズエラのマドゥロ政権だった。
CIAは8月に現地入りしたとされるが、トランプが「CIAに現地での活動を許可した」と発言したのは昨年10月。ただ、10月時点ではマドゥロ政権や官邸内部に通じた協力者を確保する、ヒューミント(人を介した工作活動)はおおかた終わっていたと考えるのが自然だ。
米国は、マドゥロの生活パターンや移動経路、食事やペットの話まで把握していた。逮捕につながる情報提供者に対する5000万ドル(約78億円)の懸賞金も実際に情報提供者に渡ったはずで、CIAのスパイや同盟国の協力者からの情報提供も駆使しただろう。
CIAは現場で「驚き」が起きることを嫌う。収集した情報を元に実物大の官邸の模型を再現し、特殊部隊には突入の訓練をさせたが、邸内の相手との間でどんな会話が行なわれるか、手引きする者が寝返る可能性含めてシミュレーションを重ね、想定外を最小化するのだ。
同時に、決行にあたってはマドゥロ自身や警備員らが身につけたスマホの位置情報を正確に把握していたはずだ。
実際、昨年10月以降、高解像度の地球観測衛星からのデータ取得が急増していた形跡もある。これはCIAの監視行動を推察させる事実だ。
サイバー攻撃を有効に展開できるよう、通信や電力などインフラを担うベネズエラの機関の関係者に内通者がいた可能性もある。シギントとヒューミントと織り交ぜて効果を最大化させるのがCIAの凄みでもある。
ちなみに、相手に悟られずに実行するハッキングは高度な技術が求められる。
米政府の情報機関で、この分野で博士号を持つようなコンピュータ・サイエンスの専門家を多数抱えているのが米国家安全保障局(NSA)だ。
国防総省の下にあるNSAは大統領直属のCIAとは別組織だが、トランプがマドゥロの影響下にある麻薬組織を「外国テロ組織」に指定したことで、CIA主導で総力を結集できたのだ。
周到な事前工作によりマドゥロ大統領は抵抗手段を奪われた。
