冬のイスタンブールは東京より少し気温が低かったようだ(本人提供)
パイナップルの皮まで剥けるピーラーが大人気?
日が沈みかけ、お腹が空いてきた。ボスフォラス海峡を眺めていたら、海を渡った先のアジア側にある海鮮料理店に行きたくなってきた。数日前にも行ったレストランで、新鮮なお魚や貝類に感動してお気に入りになった。2025年最後の夕食はそこにしよう、と決めて、フェリーに乗り込んだ。
ボスフォラス海峡を渡るには、20~30分のフェリーでの移動が便利だ。夕焼けにキラキラ反射した波間を進むフェリーにはデッキがあり、カモメが並走する景色に恍惚とする。
船内では、なぜかピーラーを売ってる人がいた。飲み物やお菓子の方が売れるだろうに、なぜ船内でピーラーなのだろう。移動中のフェリーでピーラーがほしいとなる人はいるのか? そんな疑問を抱いていたら、荷物の中からきゅうりとパイナップルを取り出し、実演販売が始まった。
きゅうりをスーッスーッとピーラーで剥いて見せてくる。そのあと、パイナップルの皮も、ピーラーで剥き出した。分厚いゴツゴツした皮も剥けるのか!とんでもない切れ味ではないか!とびっくりして、引き込まれてしまった。結果、3人のお客さんが購入していて、フェリーとピーラーは、案外相性がいいのかもしれない(ちなみに私は買ってない。あんなに切れ味がよすぎたら、指までスライスしそうだと思ったから)。
ピーラー実演販売が終わって少し時間もあったから、もう一度美しい景色を目に焼き付けようとデッキへ出た。日が沈んでいくヨーロッパ側の街を眺めると、モスクのミナレットがいろんなところからニョキニョキと出ているのが見てとれる。夕と夜の狭間に、混在した街並みを眺めるのは幻想的な時間だった。
そんな感傷にふけっていたら、右肩にポテっと小さな重みを感じた。何かが上から降ってきた感覚。視線を肩に向けると、カモメのフンがついていた。
日本にいる時に鳥のフンが落ちてきて当たったら、かなりのショックとイライラを抱えるだろう。しかし、ここはイスタンブール。しかも、2025年最後の日没。お気に入りのコートが汚れてしまったことなど少しも悲しくなくて、洗えばいいや~!フンに当たるなんて幸運が近づいている証拠!となんだか嬉しくなった。来年はきっといいことがある気がする。
20代前半のころは、わかりやすい史跡やダイナミックな世界遺産、刺激のある観光地へ行きがちだったが、最近は歴史に思いを馳せる楽しさを感知できるようになってきた気がする。一見合わないように感じるものが混在し調和するイスタンブールの奥深さに、魅了された。
これ以上生きていても何も面白いことなんてないと、ここ2年くらいずっと思っていた。しかし、生きながらえてみたら、イスタンブールにまでたどり着いた。新しい世界が広がった。生きてみるのも悪くない、と今ならほんの少し思える。
2026年は、ゆっくり自分の世界を広げて、混在する物事や心情に調和をもたらせるように過ごしていこうと心に決め、私は2025年の最後の晩餐へ向かった。
【プロフィール】
渡邊渚(わたなべ・なぎさ)/1997年生まれ、新潟県出身。2020年に慶大卒業後、フジテレビ入社。『めざましテレビ』『もしもツアーズ』など人気番組を担当するも、2023年に体調不良で休業。2024年8月末で同局を退社した。現在はフリーで活動中。2025年1月に初のフォトエッセイ『透明を満たす』を発売。同年6月には写真集『水平線』(集英社刊)も発売。渡邊渚アナの連載エッセイ「ひたむきに咲く」は「NEWSポストセブン」より好評配信中。
