改憲勢力有した安倍政権もできなかった
もちろん、憲法改正は国家や社会のあり方が大きく変わることにつながる。国会では発議の前に、なぜ改正が必要なのか、あるいは必要がないのかの論戦を通じて国民が賛否を判断できるように議論を尽くす責任がある。総選挙後に「数の力」で拙速に国会発議すべきではないのは当然だ。
そもそも、自民党は「現行憲法の自主的改正」を55年の結党以来、党是に掲げてきたが、歴代の自民党政権が本気で改正に取り組んできたとは言えない。40年以上自民党の改憲議論に関わってきた憲法学者の小林節・慶応大学名誉教授が指摘する。
「国会の憲法審査会でも、自民党はまともな改憲論を展開していない。背景には、憲法改正を国会で発議しても、国民投票で過半数の賛成を得られないというデータがあるからです。改憲は自民党の党是ですから、憲法改正が国民投票で否決されれば首相が責任をとって退陣するだけではなく、自民党は政権を降りなくてはならないリスクがある。だから本気で改正に踏み込もうとはしなかった。
自民党でさえ長くそんな姿勢だったのに、総選挙で改憲勢力が3分の2に達したからといって本格的な憲法改正を進められるのか、疑問です」
安倍政権時代の2014年総選挙と2016年参院選で改憲に賛成する勢力が衆参で3分の2を超えた。憲法改正を掲げていた安倍晋三・首相は改正に踏み込むかと見られたが、憲法改正原案の国会提出さえしなかった。
百地氏はこう言う。
「安倍さんの考えは全面改正だったが、ハードルが高い。そこで当初は憲法改正手続きを定めた96条を改正し、改正の国会発議に必要な衆参の3分の2の賛成を5分の3などに下げることを検討したが、護憲派の反対が強く頓挫。憲法改正の国会発議を模索したが、結局、改憲のテーマを絞りきれなかったと見ています」
高市首相は憲法改正原案は内閣による提出が可能という解釈を示しているが、解散会見では「皇室典範改正と憲法改正に取り組む」と一言だけの言及だった。そのうえで「こうした重要政策は、安定した政治基盤と国民の皆様の明確な信任がなければ実現できません。曖昧な政治ではなく、進むべき方向を明確に示し、国民の皆様に堂々と信を問いたい」と述べた。
前出・小林氏は、「改憲の具体的な内容にも触れず、選挙の結果で議論を進めるフリーハンドを得ようとしているのだとすれば危険なやり方ではないか」と指摘する。
自民党東京都連最高顧問を務めるOBの深谷隆司・元通産相は高市首相にこう注文を突きつける。
「憲法改正は簡単ではない。自民党はじめ改憲政党で議論のスタートには立てるが、憲法改正ありきではなく、他の野党を含めて改正が必要なのかという議論から始めなければならない。高市総理が本気で改憲を見据えているのであれば、国会の憲法調査会に任せるのではなく、総理自身が先頭に立って強いリーダーシップで改憲議論をリードするのだという決意と覚悟が問われる」
そうでなければ、この選挙が「政界再編選挙」だという本当の争点が国民に見えない。
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※週刊ポスト2026年2月6・13日号