伊藤氏の渾身の取材が結実した一冊

伊藤氏の渾身の取材が結実した一冊

「日本では古くから『死』を『ケガレ』とする概念があり、ケガレを忌避する習俗から火葬場は“好まれない”施設として、社会の片隅に追いやられてきました。

 しかし明治時代、政府の要請に応じて火葬場の移設に手を挙げたのが、明治の政商・木村荘平です。事業意欲が旺盛で、『大べらぼう』で『桁外れの奇漢』と称された木村は、当時、火葬と同じくタブー視されていた食肉事業で成功を収めた財産をもとに東京博善を設立し、火葬ビジネスに乗り出します」

 東京の街作りが未完成の段階から、火葬ビジネスに参入した東京博善。昭和初期までに都内に6つの火葬場を持ち、現在とほぼ同じ規模を確立した。つまり、東京博善が都内の火葬場を独占できるのは、行政の骨格が形作られる戦前から、火葬場の運営に従事していたからだ。

 一方、木村の死後は、浄土真宗や日蓮宗など複数の僧侶たちが役員に名を連ね、利益を考えない「宗教経営」に移行するが、昭和末期にはそうした体制も終焉を迎える。

「火葬独占の収益性に着目したのが、田中角栄の“刎頸の友”といわれた小佐野賢治でした。しかし、小佐野は東京博善を手中に収めた直後から身内に不幸が続いたため、同社の株式を廣済堂(現在の広済堂)の櫻井義晃に譲ります。

 櫻井は、政治家から右翼、暴力団にまで幅広い人脈を築き、『昭和の怪商』といわれた人物。この櫻井のもとで、火葬場をホテルのように作り替える“近代化”を推し進め、収益の基盤をより強固なものとしました」(伊藤氏)

 火葬ビジネスが高い収益性を持ちながら、昭和史に名を刻む豪腕経営者にしか手が出せなかったのは、前述のように、火葬場がアンタッチャブルな存在だったからだ。

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