芸能

NHKあさが来た ハゲタカ全盛時代に光る大阪人の「商い」魂

 予想以上のヒットとなっている朝ドラは今年のドラマのラインナップにも影響してきそうだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。

 * * *
 いよいよ、2016年の幕が開けた。今年のテレビドラマを考えるにはやはり、NHK連続テレビ小説『あさが来た』から始めるべきでしょう。

 視聴率は12週連続20%超えで、最高値は『ごちそうさん』の27.3%にあとひと息。数字だけでなく、評判もぐんぐん右肩上がり。幕末~明治という変革期の中で、大阪の両替商・加野屋に嫁ぎ、しなやかに、力強く自分らしく生き抜く主人公・あさ(波瑠)。その姿は凜(りん)としていて、まぶしい。

 あさの輝きは言うまでもないが、このドラマのエッセンスは『あさが来た』ならぬ、『あきない(商い)が来た』ではないか。

「商い」。加野屋を舞台にした「商い」の仕方、考え方、所作。それらが丁寧に細やかに、哲学も含めてぎゅぎゅっと詰まっていて、大きな見所になっているのでは。

 たとえば、あさの義理の父・大旦那の正吉。演じた近藤正臣は「大阪商い」の秘密を明かしている。最初は、衣装として履くぞうりの鼻緒がすべて「黒」だった。が、わざわざ小道具さんに指示を出して、茶と黒の二色にした、と。切れた時に自分で替えた、という設定を考えた上で。

「昔、鼻緒はしょっちゅう切れてたもんなんですよ。切れたら、替えなあかん。で自分の手拭いかなんかを裂いて鼻緒をとり替えた、そういう設定にした」(『あさイチ』のインタビューにて)

 この小さな工夫には、大きな理由が潜んでいた。「大阪は始末の町だからです」と近藤正臣。無駄に使い捨てしない。できるものなら直して使う。ものを循環させる。二色の鼻緒の草履を「履いてると、そういう(大阪商人の)気になれるんです」。

 始末を大切にする「大阪商人」になりきる役作り。両替商の旦那の心根を作るために、わざわざ草履の鼻緒の色を工夫して履く。画面で見ても気付かないほど細かな部分に、このドラマの「魂」がはっきりと見えた気がした。

 日本初の経済小説を書いた井原西鶴は、商売を行う上で必要な心得として「始末」「算用」「才覚」「信用」を挙げている。あるいは近江商人から生まれた「相手良し、自分良し、世間良し」という三方良しの精神は、かつて日本の「商い」の神髄として浸透していた。

 相手の立場を考え、それによって自分自身も生かされる--。あさと家族の物語の中に、そうした「商い」の哲学の潔さ、かっこよさが透けて見える。ハゲタカ的な経済行為が世界を席巻している今だからこそ、「商い」に惹かれる。『あさが来た』が人気を集める理由の一つ、かもしれない。

関連記事

トピックス

イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
《長引く捜査》「ネットドラマでさえ扱いに困る」“マトリガサ入れ報道”米倉涼子はこの先どうなる? 元東京地検公安部長が指摘する「宙ぶらりんがずっと続く可能性」
マンションの周囲や敷地内にスマホを見ながら立っている女性が増えた(写真提供/イメージマート)
《高級タワマンがパパ活の現場に》元住民が嘆きの告発 周辺や敷地内に露出多めの女性が増え、スマホを片手に…居住者用ラウンジでデート、共用スペースでどんちゃん騒ぎも
NEWSポストセブン
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
デビュー25周年を迎えた後藤真希
デビュー25周年の後藤真希 「なんだか“作ったもの”に感じてしまった」とモー娘。時代の葛藤明かす きゃんちゅー、AKBとのコラボで感じた“意識の変化”も
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
亡くなった辻上里菜さん(写真/里菜さんの母親提供)
《22歳シングルマザー「ゴルフクラブ殴打殺人事件」に新証言》裁判で認められた被告の「女性と別の男の2人の脅されていた」の主張に、当事者である“別の男”が反論 「彼女が殺されたことも知らなかった」と手紙に綴る
NEWSポストセブン
ものづくりの現場がやっぱり好きだと菊川怜は言う
《15年ぶりに映画出演》菊川怜インタビュー 三児の子育てを中心とした生活の中、肉体的にハードでも「これまでのイメージを覆すような役にも挑戦していきたい」と意気込み
週刊ポスト
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
田久保市長の”卒業勘違い発言”を覆した「記録」についての証言が得られた(右:本人SNSより)
【新証言】学歴詐称疑惑の田久保市長、大学取得単位は「卒業要件の半分以下」だった 百条委関係者も「“勘違い”できるような数字ではない」と複数証言
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン
バラエティ番組「ぽかぽか」に出演した益若つばさ(写真は2013年)
「こんな顔だった?」益若つばさ(40)が“人生最大のイメチェン”でネット騒然…元夫・梅しゃんが明かしていた息子との絶妙な距離感
NEWSポストセブン
ヴィクトリア皇太子と夫のダニエル王子を招かれた天皇皇后両陛下(2025年10月14日、時事通信フォト)
「同じシルバーのお召し物が素敵」皇后雅子さま、夕食会ファッションは“クール”で洗練されたセットアップコーデ
NEWSポストセブン