ライフ

漁師に「転職」した人「こんなに充実した人生になるなんて…」

 もしも生まれ変わったら「こんな仕事に就きたい」などと思ったことが、今までにあったはず。今回は、本誌取材班が実際に脱サラしてたとえば漁師になってみた人へのルポをお送りする。現代日本の再就職支援状況と、サラリーマン時代にはない「働きがい」を得た人々の声とは――以下、ジャーナリストの高永昌也氏によるレポートだ。

******************************
 タチウオ、マグロの幼魚・シビ、ほかにタコ、エビなどを獲る。朝の4時に出港し夕方4時半に帰る。船で数日を過ごすこともある。「なにものにも拘束されず、満天の星の下でキャンプみたいです」

 深津利光さん(44)は、東京・江戸川区に生まれ、20年近いサラリーマン生活のあと、長崎の五島列島で漁師になった。漁師になるのを支援してくれる制度を利用して脱サラに挑んだ。

 今月11月20日にも『東京国際フォーラム』でフェアがある。「全国漁業就業者確保育成センター(03-5215-5690)」が開催する。毎回、200人以上が集まる。求人側は50~60社。ブースで面談する。30代が4割。50代以上も7~8人いる。ここに行き、漁師になる意欲が湧けば、漁港で研修を受ける、という制度である。

 深津さんの話。

「五島には行ったことがなかったけど、東京のサラリーマン生活には耐えられなかったんです。1年間、師匠に学びました。『漁師はひとりでできないぞ』といわれて、みんなと酒を飲み、分からないことはなんでも教えてもらって」

 月々15万円支給される。独身で、生活には困らなかった。

 われらの首相が「一に雇用、二に雇用」と叫ぶまでもなく「雇用不安」はいま爆発している。〈非正規労働者〉はこの1年で全雇用者のほぼ半分の1743万人に達し、年収200万円以下が1000万人を超えているという。契約期間満了前に退職させる「雇い止め」も横行している。

 しかし悲観していても、希望は生まれない。「育成センター」に問い合わせ、漁師になった人は各地にいる。矢倉佳典さん(32)は、制服メーカーや電話設備会社の営業など転職を繰りかえし、半年間の研修後、漁師になった。南房総・富浦漁協で小型定置網漁の〈乗り子〉になりイワシ、サバ、スズキ、アジの群れを追う。

「実は泳げないんです。心配でしたけど、これほど充実した人生に出会えるとは思ってもいませんでした。怪我に気をつけて、ひとつずつ学んでいます。ヒラマサやメジマグロなどの単価の高い魚が入るとワクワクしたり」

 漁業支援だけではなく、各種の職業で、「再就職支援」の機関がある。各地のハローワークに問い合わせたり、パソコンで検索するのもいいが、ことに独立行政法人「雇用・能力開発機構」が各地で催す「離職者訓練」には応募が殺到している。
 
※週刊ポスト2010年11月19日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン