国内

暴力団が関東連合OBを取り込まぬ理由は“使い勝手”の良さ

 暴力団の全ての活動を条例で封じる「暴力団排除条例(暴排条例)」が、10月1日、東京都と沖縄県で施行された。これから暴力団関係者はどう変わっていくのか。ジャーナリストの伊藤博敏氏が解説する。
 * * *

 暴力団社会には「葬祭」と「儀式」が多い。親分子分、兄弟分の関係は、「盃事」で結ばれ、式典は古式ゆかしい作法によって執り行なわれる。「継承式」「盃直し」といった儀式が、正装した「取持人」「奔走人」「見届人」などのもとで行なわれる様子は、「ヤクザ映画」などでよく見かける光景である。

 日本の暴力団を権威づけているのは、この「儀式」によってであり、「義理」が暴力団の“徳目”とされている以上、全国の暴力団は、この様式を続けるだろう。

 ただ、暴排条例によって、暴力団員が「住民」であることを拒否され、経済活動を営めない以上、暴力団員は高齢化し、伝統を守る「儀式要員」と、身分を隠して組織に仕える「実働部隊」に分かれることになる。

 暴力団員と「密接交際者」を「認定」するのは、都道府県警の組織犯罪対策関係の部署(警視庁は組織犯罪対策3課)だが、将来の認定作業は困難を極める。

 まず「儀式要員」と「実働部隊」に接点はない。あっても水面下で行なわれるし、暴力団周辺者と見なせば「認定」し、社会生活から抹殺する対策部署の警察官と、情報交換するようなおめでたい暴力団員はいない。

 10年後の暴力団員は品行方正だ。罪は犯さず、ケンカはせず、亡くなった歴代組長や抗争事件の犠牲者を悼み、供養する。組員としての「義理ごと」以外は、逼塞するしかない。

 その代わりに、認定されない「若者」は元気だ。「盃事」で成り立つ「上下」の縛りはなく、”仲間”の結束で猛威を振るう。例えば、朝青龍事件や市川海老蔵事件で有名になった関東連合OBである。暴走族のOB連合体だ。暴力団ではなく、暴対法も暴排条例も適用されない。

 暴力団が彼らを「盃事」で取り込まず、自由にさせているのは、暴力団にとってもそのほうが使い勝手がいいからで、マフィア化は既に始まっている。

 一方、そんな粗暴とは無縁のビジネスマンが、実は「共生者」だということもある。過去の経歴は真っ白。犯罪歴がないのはもちろん、一流大学卒で英語を使いこなし、法律に詳しい。そんなエリートが、酒、女、上司とのケンカ、投資の失敗などなんらかのきっかけで転落、暴力団に “スカウト”される。「役に立つかどうか、嗅覚でわかる」(暴力団幹部)という。

 そんな一般市民が馴染む「共生者」が、家族を持って、近所づきあいをすれば、“素性”がバレることはない。

 だが、いざとなれば暴力団の「共生者」の顔を見せる。ビジネス・パートナーだと思っていた人間が、脱税紛いの節税などのような、“不都合な秘密”を共有した瞬間に、手のひらを返して法外なカネを要求してくるそんな罠があちこちで仕掛けられる危険性が出てくる。

 正体の見える暴力団は氷山の一角で、背後にマフィア化した膨大な周辺者たちがいる。そんな時代が近づいている。

※SAPIO2011年10月26日号

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