国際情報

iPhoneの部品 1位日本34%、2位ドイツ17%、3位韓国13%

「日本の製造業は落日の一途」「韓国の後塵を拝す」という悲観論が蔓延して久しいが、果たして本当にそうなのだろうか。経済アナリスト増田悦佐氏が“悲観論の虚構”を解き明かす。

* * *
10月12日、アメリカの上下両院議会が韓国とのFTA(自由貿易協定)に関する法案を可決し、来年1月の協定発効に大きく前進した。韓国はすでに今年7月、EUとの間でFTAを発効させている。日本は円高に加えて関税のハンデも背負い、「ライバル韓国」との戦いはますます不利になる、と懸念する声が輸出業界には強い。

日本の製造業、もっと言えば日本経済の象徴のようなトヨタやソニーなどのさらなる苦戦が予想され、「日本の製造業は落日の一途を辿る」という悲観論がますます喧伝されるに違いない。

だが、極端に言えば、トヨタやソニーの製品が海外で全く売れなくなっても、日本経済はもちろん、日本の製造業の屋台骨は揺るがない。

10月14日に発売が開始されたアップルのiPhone4Sは、早くもメガヒットの様相を呈しているが、それが売れれば売れるほど笑うのは日本である。昨年12月17日付ウォール・ストリート・ジャーナルがアジア開発銀行研究所などの資料を引用して明らかにしたことだが、iPhoneの部品のうち日本製が占める割合は34%と、断トツだからだ(2位はドイツの17%、3 位は韓国の13%)。

同様に、次世代の中型旅客機であるボーイングのB787 の場合も日本製部品が占める割合は35%。例えば、主翼を製造しているのは三菱重工業だし、機体の素材に使われている最先端の炭素繊維は東レ製だ。

こうした例が示すように、日本の中間財・資本財は世界市場で圧倒的に強く、輸出に占める割合も非常に高い。ジェトロ(日本貿易振興機構)の「財別輸出」のデータを見ると、2010年の場合、「工業用原料」が25.0%、「資本財」が52.7%で、計77.7%にも達する。これに対し、最終消費財である自動車などの「耐久消費財」は14.9%にすぎない(金額ベース)。輸出産業というと自動車や電機というイメージが強いが、日本が海外から“カネを稼ぐ”主力は中間財・資本財なのだ。

例えば、各種製品を作るために不可欠の金型、あらゆる機械製造業のマザーマシン(機械を作るための機械)である数値制御工作機械、あるいは工業用ロボット、半導体製造に不可欠のステッパーのような資本財、ボンディングワイヤ、フォトレジスト、フォトマスク、シリコンウエファー(いずれも半導体関連の素材ないし部品)といった中間財は日本の独壇場だ。

建設機械も、20年前まではアメリカのキャタピラー社が世界市場をほぼ独占していたが、今や世界を席巻しているのはコマツ、日立建機、コベルコ建機の3社だ。キャタピラー社製が重厚長大で使い勝手が悪いのに対し、日本製は軽量小型で性能がよく、頑丈。中国製は安いが、寿命が1、2年と短いのに対し、日本製は5年である。しかも、GPSが内蔵され、盗難にあっても秘匿場所が特定できる。シャベルを交換すべきタイミングも、内蔵チップとメーカーのコンピュータのやりとりで自動的に教えてくれる……。
まさに至れり尽くせりだ。

3月の東日本大震災の際、こうした中間財・資本財メーカーの工場の一部も被災し、製品の供給が一時的に止まった。そのため、自動車を始め世界の最終消費財メーカーは生産停止ないし縮小に追い込まれた。最終消費財の場合、これまで使っていたモノが入手できなければ、消費者は少々品質が落ちても他のモノ、安いモノで代替する。

だが、企業が生産のために使う中間財・資本財はそういうわけにはいかない。日本製の素材、部品、機械を使わなければ作れない製品が山のようにあるからだ。これは廉価な中国製品でも同じで、半導体チップ、ガラス基板など、電子機器製品の中枢を担う部品はやはり日本製が多い。大震災は図らずも、日本の製造業の存在の大きさを世界に思い知らせた。

※SAPIO2011年11月16日号

関連記事

トピックス

2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
中途採用応募者が急に増えて担当者は困惑(写真提供/イメージマート)
《SNSの偽情報で実害》中途採用に「条件満たさない」応募者が激増した企業、勝手にFラン認定された大学は「少子化の中、学生に来てもらう努力を踏み躙られた」
NEWSポストセブン
趣里(左)の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊(右=Getty Images)
趣里の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊、父と娘の“絶妙な距離感” 周囲が気を揉む水谷監督映画での「初共演」への影響
週刊ポスト
日本復帰2戦目で初勝利を挙げたDeNAの藤浪晋太郎(時事通信フォト)
横浜DeNA・藤浪晋太郎を大事な局面で起用する三浦大輔監督のしたたかな戦略 相手ファンからブーイングを受ける“ヒール”がCSの行方を左右する
週刊ポスト
宮路拓馬・外務副大臣に“高額支出”の謎(時事通信フォト)
【スクープ】“石破首相の側近”宮路拓馬・外務副大臣が3年間で「地球24週分のガソリン代」を政治資金から支出 事務所は「政治活動にかかる経費」と主張
週刊ポスト
15人の大家族「うるしやま家」(公式HPより)
《ビッグダディと何が違う?》フジが深夜23時に“大家族モノ”を異例の6週連続放送 今、15人大家族「うるしやま家」が人気の背景 
NEWSポストセブン
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
高校ゴルフ界の名門・沖学園(福岡県博多区)の男子寮で起きた寮長による寮生らへの暴力行為が明らかになった(左上・HPより)
《お前ら今日中に殺すからな》ゴルフの名門・沖学園「解雇寮長の暴力事案」被害生徒の保護者らが告発、写真に残された“蹴り、殴打、首絞め”の傷跡と「仕置き部屋」の存在
NEWSポストセブン
濱田よしえ被告の凶行が明らかに(右は本人が2008年ごろ開設したHPより、現在削除済み、画像は一部編集部で加工しております)
「未成年の愛人を正常に戻すため、神のシステムを破壊する」占い師・濱田淑恵被告(63)が信者3人とともに入水自殺を決行した経緯【共謀した女性信者の公判で判明】
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
《外道の行い》六代目山口組が「特殊詐欺や闇バイト関与禁止」の厳守事項を通知した裏事情 ルールよりシノギを優先する現実“若いヤクザは仁義より金、任侠道は通じない”
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン