国内

津波最大値変更で再工事 ゼネコンは自民党時代並みに大喜び

 想定される津波最大値が次々に高くなっている。これらの数字は、科学的にあらゆる可能性を考慮したうえで、最悪のケースを全部足し算した数字なのだ。そして、学者が想定を厳しくすると、それは土木建設業者にとって“福音”となる、と大前研一氏は指摘する。以下は、大前氏の解説だ。
 
 * * *
 従来の想定を大幅に上回る南海トラフ地震予測を、内閣府が設けた学者の検討会が発表した。
 
 その内容は、地震の規模を最大で東日本大震災並みのマグニチュード9.1に設定すると、震度7になりうる地域が10県153市町村に及んで面積は従来想定の23倍に拡大、津波の高さは最大34.4メートルに達し、従来はなかった20メートル以上の津波が来る可能性のある地域が6都県23市町村に広がる、というものだ。

 ただし、これらの数字は、科学的にあらゆる可能性を考慮したうえで、様々な仮定に基づいて多くのパターンを試算し、その「最大値」を組み合わせた結果である。つまり、事実を積み重ねているわけではなく、考えられる最悪のケースを全部足し算したらこうなる、という数字なのだ。

 学者が想定を厳しくすると、それは土木建設業者にとって“福音”となる。防潮堤や防波壁など地震・津波対策の巨大工事が、あちこちで必要になるからだ。実際、太平洋沿岸9県(静岡、愛知、三重、和歌山、徳島、愛媛、高知、大分、宮崎)の知事は早速、南海トラフ地震に備えた対策特別措置法の制定と財政支援を野田佳彦首相に要望した。

 すでに今回の予測で34.4メートルの津波が想定された高知県は、これまで設置を進めていた避難ビルでは対応できないとして、沿岸部に地下シェルターや防水構造の潜水式シェルター、超高層避難タワーの建設、津波発生時に沖に逃げる避難船の装備などを同時に検討している。

 また、高さ18メートルの防波壁の建設を進めていた静岡県の浜岡原発は、想定される最大の津波高が21メートルになったため、工事のやり直しを迫られている。だから、いまゼネコンは、万一の場合に備えるという建前でダムやら堤防やら様々な公共工事を日本中で行なっていた自民党政権時代に戻ったかのように喜んでいるのだ。

 もちろん、そのような巨大地震・巨大津波が100%来ないとは誰も保証できない。だが、そんなことをいえば、北朝鮮のミサイルが東京の都心に落ちたり、旅客機がプロ野球の試合を開催中の東京ドームに墜落したりする確率もゼロではない。リスクを回避するために経済的合理性は否定してもよいが、どこかで線引きをしなければならないのである。

※週刊ポスト2012年5月18日号

関連記事

トピックス

真美子さんが“奥様会”の写真に登場するたびに話題に(Instagram /時事通信フォト)
《ピチピチTシャツをデニムジャケットで覆って》大谷翔平の妻・真美子さん「奥様会」での活動を支える“元モデル先輩ママ” 横並びで笑顔を見せて
NEWSポストセブン
「全国障害者スポーツ大会」を観戦された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月26日、撮影/JMPA)
《注文が殺到》佳子さま、賛否を呼んだ“クッキリドレス”に合わせたイヤリングに…鮮やかな5万5000円ワンピで魅せたスタイリッシュなコーデ
NEWSポストセブン
クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン
遠藤
人気力士・遠藤の引退で「北陣」を襲名していた元・天鎧鵬が退職 認められないはずの年寄名跡“借株”が残存し、大物引退のたびに玉突きで名跡がコロコロ変わる珍現象が多発
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
相撲協会と白鵬氏の緊張関係は新たなステージに突入
「伝統を前面に打ち出す相撲協会」と「ガチンコ競技化の白鵬」大相撲ロンドン公演で浮き彫りになった両者の隔たり “格闘技”なのか“儀式”なのか…問われる相撲のあり方
週刊ポスト
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《「策士」との評価も》“ラブホ通いすぎ”小川晶・前橋市長がXのコメント欄を開放 続投するプラス材料に?本当の狙いとは
NEWSポストセブン
女性初の首相として新任会見に臨んだ高市氏(2025年10月写真撮影:小川裕夫)
《維新の消滅確率は90%?》高市早苗内閣発足、保守の受け皿として支持集めた政党は生き残れるのか? 存在意義が問われる維新の会や参政党
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン