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木嶋佳苗の自作自演に「ゲロ吐きそうになった」と佐野眞一氏

「木嶋佳苗被告の法廷ショー」とメディアによって報じられた首都圏連続不審死事件の公判。だが、傍聴を続けたノンフィクション作家・佐野眞一氏は、「これは騙された男たちの群像劇である」と評している。木嶋被告本人よりも被害者男性たちに興味をひかれた理由とは――。ノンフィクションライター・柳川悠二氏が、佐野氏に聞いた。

 * * *
――佐野さんの最新刊『別海から来た女』(講談社)では、木嶋被告のルーツをロードムービー風にたどっていきますね。ハイライトは、木嶋の祖父・木嶋正英氏と出会う場面でしょう。別海町で佐野さんは木嶋の祖父・正英氏と会い、彼の貴重な証言を初めて公開しました。お会いになった約3か月後に正英氏は亡くなっていますから、その証言はいわば佳苗に向けた遺言にもなりました。

「正英氏をはじめ、木嶋家の人間は佳苗が小学生だった頃から彼女の盗癖に頭を悩ませていた。佳苗の母が習っていたピアノの先生宅で、佳苗が貯金通帳を盗んだという話を聞いたとき、私は腰を抜かしてしまいそうになった。貯金通帳を盗むなんて、幼さゆえの出来心で済ませられる話ではないでしょう。短絡的に考えれば、少女時代の盗癖で味をしめて、次第に大きな犯罪に手を染めていったとは言えるだろうけど、そう単純な話ではないと思う。

 なぜ多くの国民がこの事件に興味を持つかといったら、無意識の中で女性はかすかに木嶋に似ている自分を見出し、男性はどこかデブでブスな女に惹かれてしまう自分を被害者に見ている。私は男ですから、この事件に対する作家としての興味も次第に被害者男性に移っていきました」

――『別海から来た女』で被害者男性を実名で、木嶋の詐欺被害に遭っていく過程を赤裸々に描くことに、ためらいはありませんでしたか。被害者の遺族にとっては、婚活サイトで出会った女に金をだましとられるという、いわば家族の恥部まで公になるわけですから。

「公判にかかったものは、すべて公開すべきだというのが私の姿勢です。確かに41歳にもなって、お泊まりデートに着ていく下着を母親に用意してもらっていた被害男性も、脱腸の治療器具をつけたまま亡くなっていたことが明らかになった被害男性(当時53歳)も、天国で『こんちくしょー!』と思っているかもしれない。でも公判なんだから、仕方ないんじゃないかな。その代わり、事件になっていない被害者に関しては、仮名にするなど最低限の配慮はしたつもりです」

――100日裁判中、作家としてアドレナリンが吹き出るような瞬間はありましたか。

「100日裁判中最大のハイライトは、計190万円を木嶋の口座に振り込んだ被害者・木村大輔さんの証言を聞いた時です。

 木嶋は金を搾取したあと、色仕掛けを使って木村さんとリッツカールトン東京に宿泊する。ところが部屋に入ってすぐ木村さんに睡眠薬を飲ませ、木村さんは全身麻酔でも打たれたように意識を失います。翌日、木嶋は木村さんにメールを送っています」

――肉体関係は何もなかったのに、〈昨晩のことを覚えていないことはとても残念ですが、私としては木村さんとお近づきになれ楽しい思い出になりました〉と書いてあった。

「そう。木村さんは不思議に思ったはずです。それからすぐに今度はホテルメトロポリタンに宿泊し、木嶋はまたしても睡眠薬で木村さんを眠らせた。木嶋は木村さんが眠っている間にホテルを出て〈かなりショックを受けてからの帰宅です〉から始まるメールを送っている。

 木村さんが意識を失っていたことをいいことに、木村さんが暴言を吐き、5万円を押しつけて『もう帰ってくれ』と言われた、と。メールの最後は〈何かにとりつかれている様に人が変わり、思い出すと、震えてしまうほど、恐怖を感じます〉と締めくくっている。

 これがすべて木嶋の自作自演かと思うと私はゲロを吐きそうになった。『ああ、犯罪のためならいくらでもウソがつける女で、犯罪を空気のように吸わないと生きられないんだな』と確信した瞬間だった。その時法廷内は静まりかえっていた。木嶋が書いたメールの文言は、まさしく悪魔の囁きだった。木村さんが命を奪われなかったことだけが、せめてもの救いだよね」

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