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公安のオウム捜査遅れ 「宗教への関与はタブー」という意識

 日本中を震撼させた地下鉄サリン事件から17年。ついに最後の特別手配被疑者が逮捕された。この間、公安警察はどのように捜査を進めてきたのか。実は、サリン事件が起きた当時、警視庁公安部には弛緩したムードが漂っており、捜査に本腰を入れたのは警察庁長官・国松孝次が銃撃される事件が起きてからだった。

 なぜ立ち上がりが遅れたのか。長期にわたり取材を続けてきたジャーナリストの青木理氏がその理由を明らかにする。(文中敬称略)

 * * *
 なぜ立ち上がりが遅れたのか。公安部幹部は当時、私にこう語った。

「公安が宗教団体に手をつけるのはタブーだという意識が強かった」

 警察庁警備局を頂点とし、警視庁公安部を主力部隊とする公安警察は、主に左右の「過激派団体」を監視対象として情報収集や取締りにあたってきた。長きにわたって最大の対象とされたのは日本共産党である。

 議長だった宮本顕治が亡くなる直前まで、健康状態を把握すると称して毎日の散歩の歩数まで記録していたのは有名な話であり、他に中核派や革労協といった新左翼セクト、あるいは右翼団体が主要な監視対象となった。公安警察の一部門である外事警察も共産主義諸国からの防諜活動を基本任務とし、ロシア(旧ソ連)や中国などの大使館や関連団体、または朝鮮総聯などを監視した。

 そんな公安警察にとって、信仰の自由という大原則に守られるべき宗教団体は手の出しにくい存在だったというのである。それは一面では事実だったろうが、もっと正確に言うなら、「反共」を最大使命と任じて肥大化していた公安警察は、そのアナクロな使命に拘泥し、硬直化していただけではなかったか。

 とはいえ、ひとたび本気になった公安警察の力は凄まじかった。お家芸ともいえる秘匿尾行や拠点監視などが繰り返され、幹部信者の動静は瞬く間に暴き出された。重要幹部が立ち寄ると目されたアジト周辺に数百人の捜査員が配されたこともある。

 微罪逮捕や転び公妨といった手口も駆使され、主要信者は続々と逮捕された。井上嘉浩や早川紀代秀、豊田亨(いずれも死刑囚)といった重要幹部を発見し、身柄確保したのはいずれも公安捜査員である。

 別の公安幹部が当時、胸を張って言った台詞がある。

「立ち上がりの遅れが批判されたが、結果的に公安部の手法を存分に生かせた。オウムの連中は過激派より警戒が薄いから随分ラクだったよ」

 だが、公安警察が公安警察らしさを発揮して捜査に邁進できたのはここまでだった。以後はむしろ、公安警察が公安警察であるが故の陥穽にはまり込み、無残な失敗を繰り返す。公安部が本格稼働する契機となった長官銃撃事件がその最大の元凶となった。

※SAPIO2012年7月18日号

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